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Mistral AI

AIエージェントによるレガシーコード刷新事例をMistral AIが公開、Fortran 77からC++への4万行移行を達成

要点

  • 仏Mistral AIは、欧州エネルギー事業者が運用する約4万行のFortran 77製物理シミュレーターをC++へ移行した事例を公表した。

  • テストスイートや一元化された仕様書がない状態から、事前の数値検証環境(パリティハーネス)構築と100以上のAIエージェントによるドキュメント復元を実施した。

  • 単純な文法翻訳や完全自律エージェントではコード品質や進行に課題が生じたため、人間が介在・監視する構造化エージェントワークフローを採用した。

  • 仏AIスタートアップのMistral AIは2026年9月9日、自社公式ブログにて、AIエージェントを活用して大規模なレガシーコードを現代的な言語へと移行したプロジェクトの実践知見を公開した。対象となったのは、欧州のエネルギー事業者が保有する約4万行の物理リザーバー(地下貯留層)シミュレーターである。同社は、テスト環境や集約されたドキュメントが存在しないFortran 77のコードベースを、数値的な正確性を維持しながらオブジェクト指向のC++へと刷新したプロセスを報告している。

背景と課題:仕様が失われた4万行のFortran 77

数十年にわたり運用されてきた科学技術計算のコードベースは、開発者が離職することで内部仕様や知識の復元が困難になるケースが多い。今回の対象システムは、テストスイートがなくドキュメントも散在した約4万行のFortran 77(1977年に標準化された手続き型の科学技術計算言語)で記述されていた。

Fortran 77はモジュールや名前空間、構造化型を持たず、COMMONブロック(プログラム全体で共有されるグローバルメモリ領域)で状態を管理する。さらに変数名の頭文字でデータ型が自動決定される暗黙の型宣言や、最大6文字までの変数名制限といった制約がある。現代の大規模言語モデル(LLM)を用いれば単純な文法翻訳は容易だが、手続き型のコードをオブジェクト指向のC++へ移行し、科学計算フレームワーク「PetSc」などと連携させるには、プログラム全体の構造的なリファクタリング(設計刷新)が必要とされた。

事前検証:数値の一致を保証する「パリティハーネス」の構築

Mistral AIは、移行作業に着手する前の最優先事項として「パリティハーネス」と呼ばれる検証環境を構築した。これは移行前後のプログラムが同じ計算結果を返すこと、すなわち数値パリティ(新旧コード間での数値の一致)を証明するための仕組みである。

具体的には、最終的な出力値だけでなく、現場のエンジニアが指定した重要中間ポイントの状態を書き出すサブルーチンをFortran側に追加した。そして、そのチェックポイントのデータを読み込んで照合するテストフレームワークをC++側に用意した。さらに、エージェントがこの検証環境を適切に操作できるよう「Skill.md」ファイルを定義した。この検証基盤を最初に整えたことで、長期的なエージェント実行の安全性が高まり、コードが正しく移行されたかを客観的に確認できるようになったとしている。

ドキュメント復元:100以上のエージェントとOCRの連携

対象プロジェクトの仕様情報は、古いPDF文書やコード内のコメントに分散していた。そこでチームは、コード移行の前に仕様の再構築を進めた。

手続き型言語の特性としてプログラム全体の呼び出し関係(コールツリー)を1つの木構造として表現できる点に着目し、独自開発したパーサーで構造を解析した。その上で、同社のCLIツール「Vibe CLI」を用いて100以上のエージェントを立ち上げ、OCR機能「Mistral OCR」等を通じて関連PDFの技術文書を読み込ませながら仕様の文書化を実行した。エージェントはツリーの末端(葉ノード)から上方へ向けてドキュメントを作成し、リポジトリへPull Requestを提出した。提出されたPRは、cron(定期実行スケジュール)で常時動作するレビュアーエージェントが自動で精査し、修正タスクを管理する仕組みが取られた。

ワークフローの変遷:完全自律から人間介入型へ

コードの移行手法については、試行錯誤を経てワークフローの最適化が行われた。

  1. 第1試行(完全自律型):サブルーチンごとに1つのエージェントを割り当て、1週間にわたり自律的に翻訳を行わせた。しかし、COMMONブロックがそのままグローバル構造体に置き換わり、GOTO文による制御構造が残るなど、「Fortranの構造をC++の構文で書き写しただけ」の状態にとどまり、抜本的な近代化には至らなかった。
  2. 第2試行(役割分担型エージェント):プランナー、コーダー、テスター、コード品質レビュアーの各役割を持つエージェントチームを編成した。コード品質は大きく向上したものの、難解なバグに直面した際にエージェントが修正ループに陥り、作業が停止(スタック)する事象が発生した。
  3. 最終構成(人間介入型の構造化ワークフロー):コーダー、テスター、レビュアーからなるエージェント連携ワークフローを人間が操作し、モジュール単位で段階的に移行する体制を確立した。エージェントが行き詰まった際に人間が介入して解除するチェックポイントを設けたことで、高いコード品質の維持と安定した進行を両立させたという。

補足

科学技術計算の現場では、開発者の引退やエコシステムの停滞により、過去の資産を現代的環境へ引き継ぐことが共通の課題となっている。

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