OWN NEWS GATHER
← 戻る
The Hacker News

Android向けAIエージェントに脆弱性、画面上の不可視テキストから接続PCでコード実行が可能に

要点

  • カナダや中国などの研究チームが、Androidデバイスを操作する複数のオープンソースAIエージェントを対象としたセキュリティ検証結果を発表した。
  • 悪意あるアプリが配置した、人間には見えない極めて薄いテキストや画面外のピクセルをAIが読み取ることで、ホストPC上で任意のプログラムを実行させられる脆弱性が判明した。
  • 検証対象となった5つのオープンソースフレームワークのすべてが、提示された7つの攻撃手法のうち少なくとも6つに対して脆弱であることが実証された。
  • AIエージェントが画面を把握するために一時保存するスクリーンショットの「ファイル生成の隙」を突き、画像を書き換える攻撃も高い確率で成功した。
  • サイモンフレーザー大学、香港中文大学、山東大学、および中国のセキュリティ企業QAXの研究者らによる合同チームは2026年7月1日、スマートフォンを自動操作するAndroid向けのAIエージェント(自律的に指示を理解してアプリ操作などを行うシステム)における複数のセキュリティ欠陥を指摘する研究論文を、プレプリントサーバー「arXiv」で公開した。この論文は7月14日に改訂されている。研究チームは「AppAgent」や「Mobile-Agent-v3」など、主要な5つのオープンソースフレームワークを対象に検証を行い、そのほぼすべてがホストPC上でのリモートコード実行(RCE:外部から標的のシステムで任意のプログラムを実行する攻撃)などの深刻なリスクを抱えていることを明らかにした。

制御文字の未サニタイズによるPC上でのコード実行

実証された攻撃のなかでも、最も重大な影響を及ぼすのがホストPCへの攻撃である。Androidデバイス上の悪意あるアプリが、他のアプリの画面上に重なるウィンドウを描画し、共有ストレージに特定の指示データを書き込むことで、画面を読み取るAIエージェントに意図しない命令を送り込むプロンプト・インジェクション(AIモデルに悪意ある指示を入力して意図しない動作をさせる攻撃手法)を実行する。
 例えば、検証対象の一つである「AppAgent」の制御プログラムでは、PCからAndroidデバイスを操作・デバッグするためのツールである「ADB(Android Debug Bridge)」を利用してテキスト入力を処理する際、AIモデルが出力した文字列をそのままシェルコマンドに流し込む仕様になっていた。この処理において、スペースやシングルクォーテーションといった一部の文字を除去する簡易的な対策しか行われておらず、セミコロン(;)やアンド(&)、不等号(>)といったシェルの制御文字がサニタイズ(悪意ある文字の無害化処理)されないまま残されていた。
 このため、AIが画面から読み取った悪意ある文字列をデバイスに入力しようとすると、ホストPC側のシェルによって文字列が分割され、後半部分に仕込まれた任意のコマンドがWindows PCなどのホスト環境で実行されてしまう。実験では、Windowsの電卓(calc.exe)を起動させるペイロード(攻撃用のコード)が、「AppAgent」「AppAgentX」「Mobile-Agent-v3」「MobA」に対する20回中20回の試行すべてで実行に成功した。

スクリーンショット取得時のタイムラグを突く攻撃

AIエージェントは画面の状況を把握するため、スマートフォンのスクリーンショットを撮影して共有フォルダ(/sdcard/など)に保存し、それをPC側に転送して処理する。研究チームはこの撮影からファイル転送までのタイムラグ(時間差)に注目した。
 「Open-AutoGLM」や「Mobile-Agent-v3」などの各フレームワークでは、この処理の間に50ミリ秒から500ミリ秒(100回の平均で約210ミリ秒)のわずかな隙が存在する。攻撃用のアプリがバックグラウンドで5〜10ミリ秒ごとにこのフォルダを監視し、画像が生成された瞬間にファイルをロックして悪意あるテキストを含む画像へ改ざんしたところ、5つのフレームワークのうち4つに対して19/20〜20/20という非常に高い確率で改ざんに成功した。
 さらに、画面上に「ネットワーク同期中のため3秒間待機してください」という偽のインフォメーションを重ね書きすることで、AIエージェントに処理を一時停止させ、攻撃のための時間的猶予を強制的に引き延ばす手法も有効に機能したという。

人間には見えないテキストや領域の悪用

AIの高い視覚認識能力が逆手にとられる事例も確認された。GPT-4oやClaude Opus 4.5、Gemini 3 Pro、GLM-4Vといった主要な視覚言語モデルでテストを行ったところ、不透明度がわずか2%という、人間の目にはほぼ認識できない極めて薄いテキストであっても、20回中20回すべて正確に認識した。オンデバイス向けの90億パラメータ規模のモデル「AutoGLM-Phone」でも18回の認識に成功している。人間の視覚と異なり、AIの画像処理プロセスには認識の限界閾値がないため、ステルス性の高い攻撃が可能になる。
 また、端末の物理的な形状を悪用した手法も示された。スマートフォンの画面の角が丸くなっていたり、カメラ用のパンチホールが存在したりする場合でも、画像を一時的に保持するメモリ領域である「フレームバッファ」は長方形のまま処理される。そのため、画面のベゼル(額縁)に隠れて人間には見えない領域(Pixel 4では角の約78ピクセル分)に描画されたコマンド文字列も、スクリーンショット内にはしっかりと写り込み、すべてのAIエージェントに読み取られてしまった。
 さらに、OSの操作支援を行う「アクセシビリティサービス」を悪用し、本物のアプリの真上に偽のログイン画面を表示してAIエージェントにユーザーの認証情報を入力させるデモンストレーションも実施された。人間であれば不自然なタイミングでのログイン要求に不審を抱く可能性があるが、テストされたすべてのAIエージェントはためらうことなく偽の画面にIDとパスワードを入力したという。

対策と修正の状況

今回の検証結果に対して、個別製品への識別番号である「CVE」は現時点で割り当てられていない。また、筆頭著者のZidong Zhang氏によれば、制御された検証環境の外部でこれらの攻撃が実際に使用された形跡はないとされている。
 研究チームは論文のプレプリント公開前に、影響を受ける各フレームワークの開発元へ非公開で連絡を行ったが、これまでに返答は得られていない。2026年7月17日時点で、今回指摘されたシェル呼び出し処理や固定のスクリーンショットパスなどの脆弱なコードは、対象となった5つのフレームワークのメインブランチ上に依然として修正されずに残っていることが確認されている。

元URL