Anthropic、AIコーディングツール「Claude Code」で自社インフラ実行を可能にするセルフホスト環境のパブリックベータを提供開始
要点
- Anthropicは、AIコーディング支援ツール「Claude Code」の実行基盤を自社インフラ上に構築できる「セルフホスト環境」のパブリックベータ版を発表した。
- Webやデスクトップなどの各種クライアントから起動したセッションを社内ネットワーク内で実行し、内部サービスやデータベースへ直接接続できる。
- ソースコードやビルド生成物、シークレットは自社インフラ内に保持される一方、推論用の会話データや実行結果はAnthropic側へ送信される。
- セッション実行を担う「ランナー」には、常時一定数を稼働させる「Fixed」と、需要に応じて起動・停止する「On-demand」の2つのモードが用意されている。
- 提供対象はClaudeの「Team」および「Enterprise」プランを利用する組織で、導入には環境構築や保守を担う専任エンジニアの配置が前提となる。
米Anthropicは2026年8月6日、同社のAIコーディング支援ツール「Claude Code」において、ユーザー企業が自前で用意したインフラ上でセッションを実行できる「セルフホスト環境(self-hosted environments)」のパブリックベータ提供を開始したと発表した。
これまでClaude Codeの実行基盤はAnthropicがホストするインフラに依存していたが、今回の機能により、自社の統制下にあるサーバーやプライベートネットワーク内でエージェントを稼働させることが可能になった。
自社ネットワーク内で直接エージェントを稼働
発表されたセルフホスト環境は、Webブラウザ、モバイルアプリ、デスクトップ環境、または自動化ルーチンから起動されたClaude Codeの作業セッションを、Anthropicのインフラではなく自社管理のコンピュートリソース上で処理する仕組みだ。
Anthropicによると、先行プレビュープログラムに参加した組織からは、主に以下の3つの利点からセルフホスト環境の導入が進んだという。
- 社内ネットワークへのアクセス: インフラ内部でセッションが動作するため、外部のインターネットへ公開していないプライベートな社内サービス、データベース、社内パッケージレジストリなどに安全にアクセスできる。
- 環境のカスタマイズ性: コンパイラや各種SDK、社内専用のCLIツールなどを事前に組み込んだ実行環境を構築でき、セッション開始直後からビルドやテストが行える。
- コンプライアンスの遵守: リポジトリのソースコードやビルド時に生成されるファイル群を、自社が管理・制御するインフラの境界内に保持できる。
導入事例として紹介されているECプラットフォーム企業Faireのシニアエンジニアリングマネージャー、ジョージ・ジェイコブ(George Jacob)氏は、セキュリティや運用の統制を保ちながらプルリクエストの生成やCI(継続的インテグレーション)のエラー修正、開発イベントへの応答にClaude Codeを統合できていると評価を寄せている。
インフラ内に保持されるデータとAnthropicへ送信される情報
セルフホスト環境を利用する場合でも、すべての処理が完全にローカルで完結するわけではない。Anthropicは、自社インフラ内に留まるデータとAnthropic側へ送信されるデータの境界について明確に説明している。
自社が用意したインフラ上に留まるのは、チェックアウトしたソースコードのリポジトリ、ビルド生成物、各種シークレット(認証情報)、およびセッション中に作成・変更されたファイル全般である。
一方で、モデルの推論処理を行うため、ユーザーの入力プロンプト、AIの応答、ならびにClaudeが読み取ったコードを含むツールの実行結果といった会話内容そのものはAnthropicへ送信される。また、作業を別の端末やインターフェースからシームレスに引き継げるよう、セッションのログ(トランスクリプト)はAnthropic側に保存される仕様となっている。
ランナーの構造と2種類の運用モード
セルフホスト環境を構築するにあたっては、「ランナー(runner)」と呼ばれる常駐プロセスを自社インフラにデプロイする。このランナーがキューからセッションを受け取り、セッションごとに個別のClaude Codeプロセスを立ち上げて処理を行う。
ランナーの運用形態には、システムの規模や用途に合わせて2つのモードが提供されている。
- Fixed(固定モード): あらかじめ指定した一定台数のランナーを常時稼働させ、受け取ったセッションをそれらに分散して割り当てる構成。
- On-demand(オンデマンドモード): オーケストレーター(コンテナやプロセスの統合管理ツール)がセッションの待機列を監視し、リクエストの到着に合わせて動的にランナーを起動し、作業終了後に停止させる構成。需要に応じてリソースを効率的に増減できる。
ランナーは複数のセッションを処理できる設計だが、セッションごとにリポジトリのチェックアウト領域が個別に分離されるため、開発者間やアカウント間で作業内容が混ざることはないという。また、チームメンバーがどの端末やインターフェースからセッションを開始しても同じセルフホスト環境にルーティングされるため、環境設定はインフラ側で一度行うだけで全社的に適用される。
既存の「Remote Control」機能との違い
Anthropicは、今回のセルフホスト環境と、既存機能である「Remote Control」の違いについても言及している。
Remote Controlは、開発者個人のローカルPCで立ち上げたセッションをスマートフォンやWebブラウザから遠隔操作する機能であり、PC側のプロセスが停止するとセッションも終了するほか、実行した本人しか利用できない。
これに対してセルフホスト環境は、組織のプラットフォームチームが運用する共有インフラ上で動作するため、個人の端末状態に依存せず、組織内の任意のユーザーが共通の実行基盤として利用できる点が大きく異なる。
利用要件と運用の前提
セルフホスト環境は現在パブリックベータとして公開されており、Claudeの「Team」プランおよび「Enterprise」プランを契約している組織が利用可能となっている。初期状態では無効化されており、管理者が有効化する必要がある。なお、ZDR(Zero Data Retention:データ即時破棄契約)を適用している組織では本機能は利用できない。
Anthropicは、インフラの運用保守が不要な「ホステッド版(Anthropicホスト環境)」の方が運用の手離れが良いため、多くの企業にはホステッド版を強く推奨すると表明している。セルフホスト環境は、ネットワーク制限やセキュリティ、コンプライアンス上の厳しい制約があるチーム向けの位置づけであり、導入にあたってはランナー用コンテナイメージの作成・更新やオーケストレーターの管理などを担うプラットフォームチームや開発生産性チームのエンジニアリソースが必要になると注意を促している。