ARM64向けLinuxのKVMにホストメモリの読み書きを許す脆弱性、仮想マシン脱出の恐れ
要点
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ARM64プロセッサ環境のLinuxカーネルKVMにおいて、解放済みのホストメモリへの読み書きを許す脆弱性(CVE-2026-89775)が判明した。
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ネステッド仮想化の処理中にアドレスキャッシュの無効化がスキップされることが原因で、ゲスト仮想マシンからホストへ脱出(VMエスケープ)されるリスクがある。
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メインラインのLinuxカーネルでは修正版が公開されており、各ディストリビューションでも順次パッチ適用が進められている。
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悪用にはArmv8.4以降の特定機能とネステッド仮想化の有効化が必要であり、現時点で攻撃コードの公開や悪用の痕跡は確認されていない。
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ARM64プロセッサ上で動作するLinuxカーネルの仮想化機能「KVM(Kernel-based Virtual Machine)」において、ゲスト仮想マシンからホストのカーネルメモリを読み書きできる脆弱性が発見された。セキュリティ研究者のHyunwoo Kim氏が報告し、2026年9月16日に開示された。脆弱性を悪用された場合、仮想マシンの隔離環境を破って基盤となるホスト上でコードを実行される可能性があるという。
TLB無効化の不備により解放済みメモリへのアクセスが可能に
本脆弱性は「CVE-2026-89775」として追跡されている。問題が発生するのは、ARM64環境において仮想マシン内でさらに別の仮想マシンを動作させる「ネステッド仮想化」を処理するKVMのコード領域だ。
ゲスト仮想マシンが特定のメモリ配置を行った際、カーネル内のサイズ計算結果がゼロになり、プロセッサのアドレス変換キャッシュを消去する「TLB(Translation Lookaside Buffer)の無効化」処理がスキップされてしまう。その結果、ホスト側ですでに解放されたメモリページがマップされたまま書き込み可能な状態で残り続ける。ゲスト側からはホストへ制御を戻すハードウェアトラップを発生させることなく、64ビット単位でこの領域を読み書きできる状態になるという。Kim氏はこの挙動を利用することで、仮想マシンからホスト環境へ脱出できると説明している。
攻撃の前提条件とローカル権限昇格のリスク
本脆弱性を突く攻撃パスが成立するには、特定のハードウェアと設定が必要となる。ARM64環境におけるネステッド仮想化はデフォルトで無効化されており、「FEAT_NV2」と呼ばれる機能を備えたArmv8.4ハードウェア上で起動時に明示的に指定する実験的モードとして位置づけられている。そのため、この機能を有効にしていない一般的なARM64 KVMホストは今回の直接的な攻撃対象外となる。
一方で、Kim氏はローカル環境での権限昇格につながる第2の悪用ルートも指摘している。仮想マシンの作成に用いるデバイスファイル「/dev/kvm」を全ユーザーがオープンできる環境において、ローカルユーザーが悪意あるゲストを構築してバグを突き、root権限を奪取できる可能性があるという。Red Hat Enterprise Linux(RHEL)のようにデフォルトで同デバイスへのアクセスを全ユーザーに許可しているディストリビューションがこの影響を受ける可能性があるが、この場合もホスト側でネステッド仮想化が有効になっていることが前提条件となる。
影響を受けるバージョンと各ディストリビューションの対応状況
影響を受けるコードはLinux 6.16から存在していたと記録されているが、メンテナーによる検証では無効化処理が実際に漏れる挙動はバージョン6.17以降で発生するとされている。アップストリームのメインラインLinuxでは、すでにLinux 6.18.51、7.2.5、7.3-rc1において修正パッチが取り込まれた。
主要ディストリビューションにおける9月22日時点の対応状況は以下のとおり分かれている。
- Red Hat Enterprise Linux: バージョン10のカーネルが影響を受ける。バージョン6から9は影響を受けない。
- Ubuntu: 26.04(AWS、Azure、GCP向けカーネルを含む)が脆弱性を抱えている。24.04 LTSの一般カーネルは影響を受けないが、新しいハードウェア対応向けカーネル(6.17、7.0)は影響を受ける。
- Amazon Linux: AL2023のkernel6.18パッケージ向けに修正が準備中(pending)となっており、その他のバージョンは影響を受けない。
- Debian: コード自体が存在しないbookwormおよびtrixieは影響を受けない。sidでは7.2.6-1で修正済みだが、forkyは脆弱な状態にある。
深刻度評価とクラウド環境への影響
ベンダー各社が提示する深刻度スコア(CVSS)は、10点満点中7.8から9.3の範囲となっている。評価に幅があるのは攻撃の難易度に関する見解の違いによるもので、ネットワーク経由ではなくローカルからの攻撃に限定される点や、影響度が大きいという認識では一致している。なお、9.3を算出したUbuntuは自社の優先度付けとしては「Medium(中)」に設定している。
Red Hatは、パッチ適用が困難なホスト向けにワークアラウンドの基準を満たす緩和策は存在しないとしている。
9月22日時点において、実証コード(エクスプロイト)の公開はなく、悪用された形跡も確認されていない。また、米サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)の悪用確認済み脆弱性カタログ(KEV)にも登録されておらず、予測悪用スコアも1%未満にとどまっている。
クラウド環境への影響については、大手パブリッククラウドにおいて該当する構成が提供されていないケースが多い。Amazon Web Services(AWS)のネステッド仮想化はIntelベースのインスタンスに限定されており、Google CloudもARM仮想マシンでのネステッド仮想化を除外しているため、テナントがこの脆弱性を悪用して基盤に侵入する直接的な経路は塞がれている状況だという。