AWSの自律走行レーシングカー「AWS DeepRacer」がカスタムOSに対応、延命を支援する開発者向けブートローダーが公開
要点
- AWSが、自律走行デバイス「AWS DeepRacer」向けに、カスタムOSのインストールを可能にする開発者用のブートローダーをリリースしました。
- 従来は公式署名のある古いOS(Ubuntu 16.04や20.04)しか起動できず、サポート終了に伴う継続的な実験の実施が困難になっていました。
- オープンソースの「shim」を基にしたブートローダーにより、開発者自身でセキュリティ証明書を管理して最新OSなどを導入できるようになります。
- 開発者モード動作時は、HDMI接続ディスプレイへの警告や、本体ライトがモールス信号で「DEVELOPER MODE」と明滅する機能でセキュリティ状態を知らせます。
- 工場出荷時の標準ファームウェアおよび公式OSの環境へは、いつでも完全に元の状態へ復元することが可能です。
リード文
アマゾン ウェブ サービス(AWS)は2026年7月20日、機械学習の学習用デバイスとして提供している自律走行レーシングカー「AWS DeepRacer」において、ユーザーが任意のオペレーティングシステム(OS)を導入できるようにする開発者向けの新しいブートローダー(OSを起動する制御プログラム)を公開したと発表しました。これにより、サポートが終了した古いシステムからの脱却が可能になり、デバイスの寿命を延ばしてより高度な実験を継続できるようになります。
本文
標準OSのサポート終了に伴うデバイスの「延命」が課題に
AWS DeepRacerは、強化学習(AIモデルが試行錯誤を通じて最適な行動パターンを学習する手法)を用いて自律走行する18分の1スケールのレーシングカーです。この車両型デバイスと、クラウド上に用意されたニューラルネットワークモデルの学習・評価環境を組み合わせることで、開発者は楽しみながら機械学習の基礎や実践方法を学ぶことができます。
しかし、出荷状態のAWS DeepRacerには強固なセキュリティファームウェアが組み込まれており、起動できるのはAWSがデジタル署名を施した特定のOSイメージのみに制限されていました。これまではUbuntu 16.04やUbuntu 20.04といったバージョンのOSが使用されてきましたが、これらのOSはすでに開発元による公式サポート期間が終了しています。セキュリティアップデートの配信が止まり、最新のツール群が動作しない状況は、継続的な研究や実験を進める開発者にとって大きな障害となっていました。デバイスを長期にわたって使い続けるためには、ユーザーが独自のソフトウェアを導入して実行できる権限が必要とされていました。
オープンソース「shim」をベースにした起動ソリューション
この課題を解決するため、AWSの開発チームは「開発者向けブートローダー」を用意しました。これは、Linux環境で広く利用されているオープンソースのセキュアブート用プログラム「shim(異なる署名の起動用バイナリを実行できるように仲介する仕組み)」プロジェクトをベースに開発されたものです。
このブートローダーを導入することで、Linuxの起動システムや証明書管理に習熟したエンジニアは、AWSの制限にとらわれることなく、以下のような自由なカスタマイズが可能になります。
- 最新のLinuxディストリビューション(OSの配布形態)のインストール
- デバイスが標準ではサポートしていないカスタムハードウェア用ドライバーの追加
- よりモダンで新しいソフトウェアスタック(複数のプログラムを組み合わせた動作環境)の実行
- これまでになかった独自の教育プロジェクトや、新しい車両制御アルゴリズムのプロトタイプ開発
自由なカスタマイズとセキュリティを両立する警告システム
自由なOS変更を認める一方で、デバイスのセキュリティ状態を適切に管理するための仕組みも実装されています。
まず、証明書管理はユーザー自身で行えるセルフサービス型となっています。起動時に標準の署名検証に失敗した場合、ブートローダーは起動パーティション内の /EFI/DEVELOPER/certs/ フォルダーに格納されている証明書を自動的に探索します。開発者は、OpenSSLやsbsignといった標準的な暗号化ツールを用いて自ら作成した証明書を管理し、起動チェーンの暗号的完全性を保ちながら独自のシステムを動かすことができます。
また、カスタム証明書を使用してデバイスが動作している際には、ユーザーに対してシステムの状態を透明にするための「開発者モード」の警告が複数行われます。
- モニターへの警告表示: HDMI経由で接続されたディスプレイ上に、現在開発者モードで動作している旨の警告画面が表示されます。
- 本体ライトによるモールス信号: 車載されているインジケーターライトが、モールス信号のパターンで「DEVELOPER MODE」と点滅します。
- ブートディレイ: システム起動時に一定の待ち時間が設けられ、ユーザーが開発者モードの警告に気づくための猶予が提供されます。
工場出荷時の標準状態に戻せるリカバリー設計
カスタムOSの利用やシステム変更を行った後でも、デバイスを元の工場出荷時の構成に復元したい場合は、いつでも完全に元の状態へ戻すことができます。AWSの公式ドキュメントに記載されている車両アップデート手順(Update Your Vehicle)に従ってリカバリー処理を行うことで、メーカー公式のファームウェアおよび標準OS環境へ元通りに復元可能です。
補足
AWSは、今回リリースされた開発者向けブートローダーを利用したコミュニティによる独自のディストリビューションのリンクなども公開しており、今後DeepRacerユーザーコミュニティを中心とした独自OSやツールの開発・共有がさらに進むことが期待されます。