BedrockとStrands Agentsを連携、営業シグナルを自動分析するマルチエージェント構築法をAWSが公開
要点
- Amazon Web Services(AWS)が、複数のAIエージェントを連携させて営業シグナルを収集・分析するマルチエージェントシステムの実装手法を公開した。
- AI向け広告スタートアップのThrad.aiは、本システムを導入することで、見込み客1件あたり30〜45分を要していた手作業の調査プロセスを自動化した。
- システムの検証にあたって「Swarm」と「Graph」という2つのエージェント制御パターンを比較し、コストや処理速度、メール品質のベンチマークを実施した。
- AWSは、実際に動作を検証できるPythonおよびAWS CDK向けのサンプルコードとインフラ定義をGitHub上で公開している。
リード文
Amazon Web Services(AWS)は2026年7月14日、同社の公式機械学習ブログにて、自律型AIエージェントの開発フレームワーク「Strands Agents」と「Amazon Bedrock AgentCore」を組み合わせたマルチエージェントシステムの構築手法を公開した。このシステムは、RedditやHacker News、GitHubなど複数の外部ソースから見込み客の行動シグナルを自動で検知し、パーソナライズされた営業メールを作成するまでのプロセスを自動化するものだという。
本文
営業リード調査における課題
営業活動において、見込み客(プロスペクト)がインターネット上に残す様々なシグナルを検知することは極めて重要である。たとえば、RedditのSaaS関連コミュニティで質問を投稿したり、Hacker Newsで自社プロダクトを公開したり、あるいはGitHubのリポジトリのスター数が急増したりといった変化がこれにあたる。しかし、これら一つひとつのシグナルは単体では単なるノイズに過ぎず、複数のソースにまたがる関連性を手作業で突き合わせるには膨大な労力が必要となる。
チャットAI向けの広告配信プラットフォームを開発するスタートアップ企業のThrad.aiでは、まさにこの課題に直面していた。同社の営業チームは、見込み客1件に対して6つの情報源を調査し、それをもとにパーソナライズされた営業メールを1通作成するまでに、30分から45分もの時間を費やしていたという。
また、これらの多様なシグナルを検知し分析するプロセスは、単一のAIエージェント(特定のタスクを自律的に実行するAIプログラム)では対応しきれないという問題があった。シグナルが多岐にやり、連携する外部API(異なるソフトウェア同士を接続するインターフェース)の仕様も様々であるため、1つのモデルだけで高度な分析を行うのは現実的ではなかったためだ。
マルチエージェントによる自動化アプローチ
今回AWSが提示したソリューションは、複数のエージェントを連携させるマルチエージェントシステム(複数の異なる役割を持つAIエージェントを協調させて動作させる仕組み)によって解決を図るものだ。
このアーキテクチャでは、RedditやGitHubといった情報源(ソース)ごとにそれぞれ「スペシャリストエージェント」を配置する。各エージェントは自らの担当するソースからシグナルを収集することに特化しており、取得したデータを集約する。
集められたデータは、次に「アナリシスエージェント」へと渡される。このエージェントは、各ソースから得られたシグナルの相関関係を分析し、見込み客の購入意向度合いを評価する役割を持つ。分析の際には、あらかじめ設定された重み付け基準、意図(インテント)の分類、そして時間が経つにつれて情報の価値が低下する「時間的減衰(temporal decay)」といった評価基準を組み合わせて、見込み客を自動的にスコアリングする仕組みだ。これにより、確度の高い見込み客に対して自動でパーソナライズされたメールの文面が生成される。
「Swarm」と「Graph」の2パターンを検証
ブログでは、エージェントをどのように連携させるかについて、「Swarm」と「Graph」という2つの主要な制御パターンを設計し、それぞれの性能を直接比較したベンチマーク結果が紹介されている。
「Swarm」は、明確な統制なしにエージェント同士が自律的に連携するパターンであり、「Graph」はあらかじめ定義されたワークフローに沿って整然と処理を進めるパターンである。これらを処理遅延(レイテンシー)、処理コスト、そして生成された営業メールの品質という3つの指標をもとに比較検証している。
本番環境への導入に向けたガバナンス(運用の管理や規制)コントロールについても言及されており、安全で統制された運用ができる機能が組み込まれているという。
サンプルコードと開発要件
AWSは、このシステムを手軽に再現できるよう、GitHub上に「sample-multi-agent-social-intelligence-strands-agentcore」というリポジトリを用意している。
このサンプルを動かすための前提条件として、Python 3.12以上およびNode.js 18以上の環境が必要となる。また、AWS Cloud Development Kit (CDK)(プログラムコードを用いてクラウド上のインフラを定義・構築できるツール)と、AIモデルの呼び出しやインフラ管理を行うAmazon Bedrock、DynamoDB、AWS Lambda、Secrets ManagerなどのAWSサービスの利用権限が求められる。
LLM(大規模言語モデル:大量のテキストデータから学習し、人間のような文章を生成できるAI技術)としては、Amazon Bedrock上の「Claude Sonnet 4.6」を使用する設定となっており、開発の展開にかかる時間は約60分、インフラ展開およびBedrockの呼び出しコストとしておよそ3〜5ドルが必要になると案内されている。
補足
このマルチエージェントを用いたソーシャルインテリジェンスのパターンは、営業活動のみならず、競合企業の動向を追う「競合分析(competitive intelligence)」や、優秀な人材を探し出す「採用候補者のソーシング(candidate sourcing)」、さらには広範な「市場調査(market research)」といった分野にも応用が可能であると説明されている。