成蹊大やABEJA、有価証券報告書から企業の成熟度を推定するテキスト埋め込みモデルを発表
要点
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成蹊大学や株式会社ABEJAなどの研究グループが、有価証券報告書の文章から企業の成熟度を推定するテキスト埋め込みモデルを開発した。
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従来のキャッシュフローによる離散的な判定手法が抱えていた、段階間の推移を捉えにくい問題や財務数値の不安定さを解決するため、定性テキストの距離学習を採用した。
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人工知能学会の「第37回 金融情報学研究会(SIG-FIN)」で報告され、成長段階から成熟段階への連続的な移行などの可視化に成功した。
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現状は過学習の傾向が見られるものの、将来的には企業の変調検知や投資スクリーニングなど金融実務への応用が期待されている。
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成蹊大学の竹下蒼空氏、酒井浩之教授らと株式会社ABEJAの高野海斗氏らによる共同研究グループは、企業の有価証券報告書に記載された定性テキストを用いて、企業のライフサイクル(成熟度)をベクトル表現するAIモデルを開発した。2026年10月10日から11日にかけて開催された「第37回 人工知能学会 金融情報学研究会(SIG-FIN)」において研究成果を発表した。定性的なテキスト情報を多次元の数値に落とし込むことで、従来の財務指標のみを用いた手法では困難だった企業の推移プロセスの把握を目指している。
金融とAIの応用を議論するSIG-FINでの研究発表
発表の場となったSIG-FINは、金融市場への人工知能技術の応用促進を目的とした人工知能学会の第二種研究会である。学術機関の研究者に加え、事業会社の実務家による登壇が多い点に特徴があるという。
2026年10月に開催された第37回研究会では計35件の発表が行われ、原稿は学術プラットフォーム「J-STAGE」で公開されている。人工市場やポートフォリオ最適化といった金融工学分野のテーマと並び、自然言語処理や大規模言語モデル(LLM)エージェントに関する研究が多数報告された。本研究もそのテキスト分析に関する成果の1つとして報告された。
従来手法の課題とテキスト埋め込み技術の採用
企業成熟度を機械的に推定する代表的な手法として、営業・投資・財務の各キャッシュフロー(CF)の正負の組み合わせから分類するDickinson(2011)の手法が知られている。客観的で解釈性に優れる一方、研究グループは次の2つの課題を指摘した。
1つ目は、企業の成熟度は本来連続的に変化するにもかかわらず離散ラベルで分類するため、同じカテゴリ内での差異や段階間の移行過程を表現できない点である。導入から衰退までを1から4の数値に割り当てるような単一軸の回帰モデルも検討されたが、成熟を経ずに成長から衰退へ直行する企業が存在するため、1つの軸では表現しきれないという問題があった。
2つ目は、財務指標のみに依存しているため推定が安定しにくい点である。そこで研究グループは、企業の開示文書に含まれるテキスト情報に着目した。定性的な記述にこそ成熟度の傾向が現れると考え、多次元空間で表現する「テキスト埋め込み(テキストを高次元の数値列に変換して意味や関係性を表現する技術)」の導入を決定したと説明している。
財務条件による教師データ作成と距離学習による構築
研究の大きな課題となったのは、企業成熟度そのものが定性的な概念であり、客観的な「正解ラベル」の定義が難しい点だった。これに対し、有価証券報告書の「1-3 事業の内容」「2-2 サステナビリティに関する考え方及び取組」「4-3 配当政策」の3セクションを抽出対象とした上で、厳格な財務条件を満たした企業を機械的にラベル付けするアプローチを採用した。
具体的には、市場・事業環境、財務・CF、配当・株主還元、組織・ガバナンスという4つの観点から段階ごとの条件を定義した。全条件を満たした企業として、導入75社(139報告書)、成長136社(159報告書)、成熟103社(137報告書)、衰退51社(74報告書)を教師データとして抽出したという。
モデルの学習には、「Triplet Loss(基準データに対して同じ分類のデータを近づけ、異なる分類のデータを遠ざける損失関数)」を用いた距離学習(データの類似度に応じて空間上の配置を最適化する機械学習手法)を採用した。同一成熟度のテキスト同士は近く、異なる成熟度のテキスト同士は遠くなるよう最適化を行っている。
段階推移の可視化と浮かび上がった課題
学習済みモデルの埋め込み表現を主成分分析(データの情報を保ちながら少数の次元に要約する統計手法)によって2次元に縮約したところ、各成熟度ごとに一定のまとまりが確認されたという。
「配当政策」セクションでは、ともに無配となる傾向がある導入段階と衰退段階が近くに分布したほか、成長段階から成熟段階への連続的な推移が確認できたと報告している。
一方で、現状のモデルには明確な課題も残されている。全体として各セクションで過学習の傾向が見られ、評価用データや人手でラベル付けしたテストデータに対しては、期待通りの埋め込みベクトルが得られないケースが散見されたとしている。
自社データによる推移確認と投資実務への展望
研究グループは、学習データに含まれていないABEJA自社の過去の有価証券報告書(事業の内容)を用いてモデルの検証を実施した。その結果、2023年と2024年の記述は導入段階の端に位置していたが、2025年には成長段階側へと推移している様子が捉えられたという。
このように各企業の位置や経年推移を把握できるため、一定以上の変化が生じた企業や、導入から成長・成熟へ移行する企業、衰退へ向かう企業を早期に検知・サンプリングできる可能性があるとしている。
研究グループは今後、モデルのさらなる改良を進めた上で、本手法を活用したスクリーニングが実際の投資戦略においてどの程度の有効性を持つか検証していきたいと述べている。