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Cloudflare AI Blog

Cloudflare、2029年の耐量子暗号移行に向けコード解析AIツール「CryptoLabe」を開発

要点

  • Cloudflareは2029年までにプラットフォーム全体の完全な耐量子暗号(PQ)対応を目指す方針を掲げている

  • 膨大なリポジトリや設定ファイルに埋もれた暗号利用の把握において、従来の文字列検索では過剰検知や検知漏れが生じる課題があった

  • 同社はコードベースや社内文書を横断的に解析し、暗号の利用実態や移行経路を特定する社内用AIツール「CryptoLabe」を開発した

  • CryptoLabeは暗号の発見から詳細分析までを段階的に実行し、移行進捗の可視化や標準化の未整備といった前提課題の早期発見を支援する

  • 米Cloudflareは2026年9月29日、同社が掲げる2029年の耐量子暗号(PQ: Post-Quantum。量子コンピュータによる解読に対抗できる暗号技術)への完全移行に向け、社内コードベース全体の暗号利用を検出・分析する独自AIツール「CryptoLabe」を開発中であると発表した。大規模なシステム基盤において暗号技術の利用実態を正確に把握し、製品やプロトコルごとの移行計画策定を加速させる狙いだ。

2029年の完全耐量子化に向けた3つの目標

世界中の研究機関で暗号解読が可能な量子コンピュータの開発競争が進む中、Cloudflareはすべての通信を将来の脅威から保護する「PQ everything!」という最大主義的な方針を掲げている。同社は多くの製品ですでにTLS 1.3(インターネット通信を暗号化・保護する標準プロトコル)を通じた耐量子暗号化への移行を進めているものの、耐量子認証の対応やプラットフォーム全体の網羅にはまだ課題が残っているという。

同社は、大規模な組織全体で移行を推進するために以下の3つの主要目標を設定している。

  1. エンジニアリングチームの理解と更新の支援: 耐量子暗号化と耐量子認証の双方について、自社のコード内で暗号がどのように使用され、どう更新すべきかを開発チームが理解できるようにする。
  2. 移行進捗の指標化: リポジトリや製品ごとに、古典暗号および耐量子暗号の使用数を定量的に可視化する。
  3. 前提条件・依存関係の早期特定: 移行計画が存在しないプロトコルや、耐量子標準の未策定、ライブラリなどのエコシステム側の未対応を早期に洗い出し、標準化団体や関係者と協力して自社の2029年目標に間に合わせる。

大規模コードベースにおける暗号探索の課題

Cloudflareの製品を支えるソフトウェアの多くは単一の中央ソースコード管理プラットフォームに集約されており、コードベース全体を走査できる利点がある。しかし、規模の拡大に伴い以下の3つの課題が生じていたという。

まず、ソースコード自体が膨大な数のリポジトリに分散している点だ。次に、暗号技術がコード上で明示的に宣言されず隠蔽されている点がある。インポートされているが実際には呼び出されない共有ライブラリや、暗号方式が別のリポジトリにあるYAML設定ファイルで固定されているケース、さらに非推奨化の途上にあるデッドコードやテスト用コードなどがその例だ。通信のデフォルト設定も要因となり、TLS 1.3の通信において古典的な鍵交換アルゴリズムであるX25519を使用する設定になっているか、耐量子対応のX25519MLKEM768を使用する設定になっているかといった差異もコード表面からは判別しにくい。

さらに、単純な文字列検索(grep)によるパターンマッチングの限界も挙げられている。「RSA」や「X25519」などのアルゴリズム名で検索した場合、未使用のコードまで検出して過剰検知になる一方で、依存関係や設定ファイルのデフォルト値を拾えず検知漏れを引き起こす。また、検索だけでは暗号の用途までは判別できない。たとえば古典的なデジタル署名アルゴリズムであるECDSAが検出されたとしても、それがJWT(認証情報を安全に受け渡すトークン規格)、IPsec(ネットワーク層で通信を保護する規格)、TLS、SSHのどれに使われているかによって移行手順は根本から異なる上、通信相手となるクライアント側の対応状況にも左右されるためだ。

AIを活用した内部ツール「CryptoLabe」の構造

こうした課題に対し、Cloudflareはコードの文脈理解や複数ファイル間の関連性追跡、構造化データの出力に長けたAIの活用に踏み切った。社内ドキュメントやチケット管理システムの情報を統合しながら、暗号の使用実態と適切な更新手順を提示できる仕組みとして開発されたのが「CryptoLabe」だ。ツール名は、ポルトガルの航海士が現在地を割り出し航路を定めるために改良した航海用観測儀「アストロラーベ」に由来している。

現在のCryptoLabeは、暗号の発見と移行指標の取得に向けて2段階のスキャンを実行する構成をとっている。

第1段階である「発見(discovery)」では、リポジトリの構造をマッピングした上で、ソースコード、各種設定ファイル、マニフェスト、ロックファイル、スクリプト、テストコード、ドキュメントを網羅的に走査する。探索対象には、鍵合意、署名、非対称暗号、PKI(公開鍵暗号基盤)、トークン、認証情報、HSM(ハードウェア・セキュリティ・モジュール: 暗号鍵を安全に管理する専用機器)の統合などが含まれる。この発見段階によって、コードベース全体の「生の観測データ(raw observations)」が出力され、後続の詳細分析ステージへと渡される仕組みとなっている。

CryptoLabeはCloudflare内部のリポジトリやチケット管理、ドキュメント体系に高度に特化して開発されているため、外部の顧客向けには提供されない。ただし同社は、耐量子暗号への移行に取り組む他の組織の参考となるよう、自社の知見やアプローチを今後も共有していくとしている。

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