多機能マルウェア「Avalon」が判明、主要セキュリティ製品の回避とAI支援開発の兆候を専門家が指摘
要点
- セキュリティ企業Blackpoint Cyberは、資格情報窃取からランサムウェア実行までを統合した新しいマルウェア「Avalon」を発見した。
- 攻撃はProton Drive上のパスワード保護されたファイルから始まり、偽装されたISOイメージファイルを用いて初期検知を回避する。
- Avalonは、Microsoft Defenderをはじめとする主要なセキュリティ製品の検知をすり抜ける高度な回避機能を備えている。
- このマルウェアにはAI支援開発の兆候があり、技術力の低い攻撃者でも高度なツールを容易に構築できる現状を示している。
- Sysdigは、AIのエージェント機能を利用してデータベースを自動で暗号化・恐喝する、初のLLM駆動型ランサムウェア攻撃についても報告した。
巧妙な初期潜入と多段階の攻撃手順
セキュリティ企業のBlackpoint Cyberは2026年7月3日、認証情報の窃取からシステムの暗号化、データ破壊までを行う新たなマルウェア「Avalon」の発見を公表した。このマルウェアは、検知回避のために設計された多段階のフィッシング(偽メールで騙す手口)チェーンを通じて拡散されているという。
研究者のネヴァン・ビール氏とサム・デッカー氏によると、攻撃は「Proton Drive(安全性の高いオンラインストレージ)」上の保護されたアーカイブへ誘導する偽メールから始まる。悪意あるファイルはメールに直接添付されず、「ISOイメージ(ディスクの内容を一つにまとめたファイル)」内に隠して検知を回避していた。受信者がISO内のショートカット「Secure Document CA-283505.pdf.lnk」を開くと、感染プロセスが起動する。
このショートカットは、開発ツール「MSBuild」を実行して「.NETアセンブリ(プログラムの実行単位)」を読み込み、動作記録機能である「ETW(Windowsの動作記録機能)」を妨害して調査を困難にする。その後、HTTPS経由で「Avalon」本体をダウンロードする。
徹底した検知回避とセキュリティ対策の無効化
Avalonは強力な防御回避サブシステムを備え、Microsoft Defender、SentinelOne、CrowdStrike、Sophos、Elastic Endpoint、FortiEDR、ESET、McAfee、Bitdefenderなどの主要セキュリティソフトからの検出を回避する。研究者は、「防衛システムに応じて動作を柔軟に変え、遠隔監視のデータを削減できる」と説明している。
Avalonの持つ多様な機能
Avalonは、単一のマルウェアでありながら非常に広範な攻撃機能を備えており、その詳細は以下の通りである。
- Chromium系ブラウザやFirefoxから、認証情報、クッキー、閲覧履歴、ブックマークを窃取する。
- MetaMask、Phantom、Coinbase Wallet、Exodus、Electrum、Atomic Wallet、Ledger Live、Bitcoin Coreなどの暗号資産ウォレットやDiscord、Slack、Teams、VPN、Windows資格情報マネージャーからデータを収集する。
- SSHの既知の接続先、RDP接続情報、Wi-Fiプロファイル、グループポリシーのパスワード情報を収集する。
- データをC2サーバー(感染したマルウェアに命令を送るサーバー)「helloxcherry[.]com」へ送信し、コマンドの受信を待つ。
- ネットワークを偵察し、感染を拡大するシステムを優先順位づけする。
- WindowsのCryptography APIを用いてファイルを暗号化し、支払タイマー付きの脅迫状を出す。
- ボリュームシャドウコピー(自動バックアップ機能)を強制終了・削除し、システムの回復を妨害する。
- 痕跡消去サブシステムによるクリーンアップで、インシデント対応を阻害する。
- パーティション情報やブートレコードなどのディスク構造を直接破壊し、システムを使用不能にする。
このうち、ファイルを暗号化して金銭を要求するランサムウェアの機能は、内部的に「CrownX」と名付けられている。Blackpoint Cyberは、「CrownXによる暗号化が始まる前に、認証情報の窃取やC2通信の確立、バックアップの破壊といった広範な侵害が完了しているため、被害は暗号化自体よりも遥かに大きい」と指摘する。
AI支援による開発の低コスト化
また、Avalonの構造にはAIを活用して開発された形跡がある。高度な隠蔽技術や運用の安全性を考慮せず、多種多様な機能を単純に組み合わせた構成をしており、AIが開発を補佐したと推測されている。
この事実は、AIがマルウェア開発の参入障壁を下げている実態を示している。特別な技術力のない攻撃者でも、AIの支援により、本来なら膨大な労力を要する多機能ツールを短時間で作成できる。もはや、高度な機能の有無は、攻撃者の技術的な成熟度を示す指標にはならないという。
LLMを悪用した自律型ランサムウェアの出現
並行して、セキュリティ企業のSysdigは、大規模言語モデル(LLM)によって最初から最後まで自律的に実行された初のランサムウェア感染事例を報告した。「JADEPUFFER」と呼ばれる自律型エージェント(指示に従って自律的に作業を行うAI)が、AI管理ツール「Langflow」の脆弱性(CVE-2025-3248)を悪用して初期侵入に成功。その後、行動計画をリアルタイムで修正しながら完全自動で攻撃を進め、最終的には本番用データベースサーバーを暗号化して金銭を要求した。この事例は、ランサムウェア実行に必要なハードルが、AIエージェントの稼働コスト程度まで低下している現実を浮き彫りにしている。