Google DeepMind、脆弱性の検出と修正に特化した軽量AIモデル「Gemini 3.5 Flash Cyber」を発表
要点
- Google DeepMindが、ソフトウェアの脆弱性を迅速に発見・修正するセキュリティ特化型AIモデル「Gemini 3.5 Flash Cyber」を発表した。
- 本モデルは脆弱性対策用AIエージェント「CodeMender」を通じて、政府機関や特定のパートナー向けに限定的に先行提供される。
- 複雑なソフト「V8エンジン」を用いた検証では、競合他社の最上位モデル「Claude Opus 4.6」を上回る検出精度を示した。
- 開発側は悪用防止のため厳格なガードレールを設置する一方、将来的にはレッドチーム機能などの拡張も視野に入れている。
リード文
Google傘下のAI研究部門Google DeepMindは2026年7月21日(現地時間)、ソフトウェアの脆弱性(セキュリティ上の欠陥)を迅速に発見し、パッチ(修正プログラム)を適用できるセキュリティ特化型AIモデル「Gemini 3.5 Flash Cyber」を発表した。「Gemini 3.5 Flash」をベースにした軽量モデルで、高い処理能力と費用対効果を両立している。まずは限定的な試験運用プログラムとして、特定の政府機関やパートナー向けに提供される。
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費用対効果に優れたセキュリティ特化モデル
Gemini 3.5 Flash Cyberは、構築コストのかかる従来のセキュリティ特化型モデルの代替となる、軽量かつ実用的な選択肢として開発された。本モデルは、Googleが2025年10月に発表したAI駆動型の脆弱性検出・修正エージェント「CodeMender」の内部で動作する。
CodeMenderがこの新モデルを高速かつ低コストで複数回呼び出すことで、AIエージェントはコード内のより多くの処理経路(コードパス)を網羅的にスキャンでき、結果として脆弱性の発見効率が大幅に向上するという。
なお、今回の発表は、コーディングや知識作業、マルチモーダル性能を向上させた「Gemini 3.6 Flash」や、低遅延(処理の遅れが少ないこと)タスク向けに最適化された「Gemini 3.5 Flash-Lite」のリリースと同時に行われた。
複雑なシステムでの検証で競合モデルを圧倒
Google DeepMindによる性能評価において、Gemini 3.5 Flash Cyberは標準のGemini 3.5 Flashや最新のGemini 3.6 Flashと比較して、プログラム内の新しい脆弱性を見つけ出す能力で優れていることが確認された。
さらに、Google ChromeやApple Safariといった複雑なソフトウェアプロジェクトを用いたストレステスト(負荷や限界を調べる試験)では、競合するAnthropic社の最上位モデル「Claude Opus 4.6」を大幅に上回る成果を収めた。
具体的には、Chromeなどに採用されている「V8 JavaScript Engine(JavaScriptというプログラミング言語を実行するための仕組み)」を対象としたテストにおいて、Gemini 3.5 Flash Cyberは55個の固有の脆弱性を検出し、そのすべてが確認された。これに対し、標準のGemini 3.5 Flashは47個、Claude Opus 4.6は36個の検出にとどまり、新モデルは他のAIモデルが検知できなかった10個の問題を単独で特定することに成功している。
実環境での実証とエクスプロイト生成能力
新モデルの実力は実験室内に留まらず、より実践的なシナリオでも証明されている。Googleは、公開されているAPI(ソフトウェア同士をつなぐ窓口)におけるリモートコード実行(RCE、外部から標的のシステムで勝手にプログラムを実行させる攻撃)の脆弱性や、実際に稼働している重要サービスのメモリ破損脆弱性を発見するテストに本モデルを投入した。
その結果、Gemini 3.5 Flash Cyberは、ASLR(アドレス空間配置のランダム化により攻撃を防ぐ技術)や、W^X(メモリ領域に書き込みと実行の権限を同時に与えない制限)といった標準的なセキュリティ保護技術を完全に回避する、信頼度 100% のリモートコード実行エクスプロイト(脆弱性を突く攻撃用プログラム)の作成に成功したという。
悪用を防ぐ厳格な提供体制
セキュリティ技術はその性質上、防御だけでなく攻撃にも悪用されかねない「デュアルユース(軍事・民生双方に利用可能な二面性)」の特徴を持つ。このため、Google DeepMindは提供方法について意図的に慎重なアプローチを採用している。
同社のGeminiセキュリティ部門リードを務めるラルカ・アダ・ポパ(Raluca Ada Popa)氏と、セキュリティおよびプライバシー担当バイスプレジデントのフォー・フリン(Four Flynn)氏は共同ブログにて、「防御を担う最前線の担当者が、悪意ある攻撃者に先駆けて重要な脆弱性を発見・修正できるようにする一方で、技術の悪用を防ぐために、段階的な公開を行う」と説明している。
新モデルがCodeMenderの内部に限定して統合されているのもこの方針の一環だ。これにより、AIが不正なサイバー活動に利用されるのを防ぐ制御機能(ガードレール)の適用が容易になる。一方で、防御担当者がAIを用いたフォレンジック分析(セキュリティ事故の原因を突き止めるための調査分析)を行う際に、過剰な安全機能によって作業が拒否されるといった状況を回避するように調整されている。
今後の展開と一般向けプラットフォームへの展開
Google DeepMindの広報担当者によれば、将来的には本モデルの機能をさらに拡張し、疑似攻撃を通じてシステムの弱点を洗い出す「レッドチーム(組織の防御力をテストするために擬似攻撃を行うセキュリティ手法)」機能や、企業向けの総合的な防御機能なども搭載する計画だという。
また、GoogleはCodeMenderが持つ基本的な脆弱性対策機能を、一般向けに提供されている通常のGeminiモデルを介して、顧客向けに直接提供する方針も示している。これは「Gemini Enterprise Agent Platform」を通じて利用可能になる予定で、同社は「3.5 Flash CyberのパワーをCodeMenderに注入することで、より多くの防御者がソフトウェアを安全に保てるよう、高性能で拡張性があり、かつ手頃な価格の仕組みを提供する」と述べている。