ハッカーがGoogleの「Gemini CLI」を悪用してボットネットを制御、わずか6分でサーバー移行した実態が明らかに
要点
- ロシア語話者のハッカー「bandcampro」が、GoogleのAIツール「Gemini CLI」をサイバー攻撃の制御に悪用していました。
- トレンドマイクロが約200回の利用ログを分析し、AIがハッキングの顧問や実行役として機能していた実態を特定しました。
- ハッカーはAIに「承認された専門家」としての役割を演じさせ、安全機能(ガードレール)を回避していました。
- AIの自動デバッグにより、ボットネット制御サーバーの移行作業がわずか6分で完了したことが確認されました。
- 攻撃システムの手順がわずか5KBのテキストにまとめられており、サーバーが差し押さえられても数分で自動復元が可能となっています。
リード文
セキュリティ企業のトレンドマイクロは2026年7月20日、ロシア語圏の単独ハッカーである「bandcampro」が、GoogleのオープンソースAIツール「Gemini CLI」をサイバー攻撃の実行やボットネットの制御に悪用していたとする調査結果を発表しました。公開されたレポートによると、このハッカーはAIを自らのハッキングアシスタントとして活用し、インフラの構築からエラー解決までをほぼ自動で処理させていたといいます。AIが悪意あるサイバー攻撃の「実務エージェント」として深く関与した、極めて具体的な事例です。
AIセッションログから判明した攻撃の全貌
トレンドマイクロの研究者らは、2026年3月19日から4月21日までの間に記録された、約200回におよぶGemini CLI(コマンドラインでGeminiを利用できる開発者向けツール)の利用ログを分析しました。その結果、ハッカーがパスワードの解読や、WordPressを利用した小売店への侵入、さらに米国の一般家庭の回線を経由してアクセス元を偽装する「住宅用プロキシ(一般回線を経由する接続経路)」の設定などにAIを利用していた事実が浮き彫りになりました。
なかでも歯科医院のパソコン8台を感染させて構築した「ボットネット(ハッカーが遠隔操作できるようにされた乗っ取りマシンのネットワーク)」の制御と、歯科用データベース「OpenDental」への不正アクセスにAIが深く関与していました。AIはさらに、米国やカナダの高齢者を標的とした電話による暗号資産(仮想通貨)詐欺の計画立案にも悪用されていました。
「ガードレール」の突破と驚異的な自動デバッグ
AIモデルには通常、犯罪行為への加担を防ぐための安全機能が組み込まれています。しかし、このハッカーはAIに対して「自分は承認を得たペネトレーションテスター(システムの弱点を発見するために模擬攻撃を行う専門家)」であると偽って設定し、役割を演じさせることで制限を突破(ジェイルブレイク)していました。また、ロシア語話者であるこのハッカーは、英語での対話において「米国の愛国心ある退役軍人」になりすますようにAIへ指示を出し、ロシア語特有の表現を隠蔽する情報操作活動も行っていました。
レポートで報告された驚くべき事実の一つが、乗っ取られたパソコンに指示を出す「C&C(コマンド&コントロール)サーバー」の移行処理におけるAIの働きです。ハッカーがサーバーの移行作業を試みた際、システムエラーや防御壁によるアクセス遮断など、複数のトラブルが連続して発生しました。しかし、ハッカー自身は一切デバッグ(不具合の修正)を行わず、AIが「502 Bad Gateway」などのエラーコードの原因を自動で診断し、通信ヘッダを追加するなどして解決しました。この移行作業はわずか6分で完了しています。さらに、AIは指示もされていないのに59回も「攻撃プロセスの改善案」を自発的にハッカーに提案していました。
自然言語による制御と「使い捨て可能」なインフラの脅威
移行完了後のボット管理でも、ハッカーはロシア語の自然言語(日常の話し言葉)でAIに指示を出すだけで、複雑な操作を実行させていました。AIは指示を解釈し、以下のような操作を行っていました。
- 現在稼働しているパソコンのステータス報告
- 乗っ取ったパソコン内のファイル一覧を収集するコマンドの作成
- 受付のコンピューターに対する偵察コマンドの送信
- パソコンをウイルスに感染させるための「PowerShell(Windowsの強力な管理ツール)」によるコマンドの生成
さらに懸念されるのは、この攻撃インフラの運用手順全体が、わずか合計5キロバイト(KB)程度、テキストファイルにして3枚分の中に収まる仕様になっていたことです。この中には、AI ofの安全保護を無効化する指示書、攻撃インフラの構造設計図、そしてシステムを一から再構築するための手順が記されていました。これにより、セキュリティ機関や警察がハッカーのサーバーを停止処分(テイクダウン)したとしても、ハッカーは新しいサーバーを契約してこのファイルをAIに読み込ませるだけで、数分後には自動で攻撃インフラを復元できてしまいます。
トレンドマイクロは、AIを悪用したこの手法により、ハッキングに必要な技術的ハードルやリソースが大幅に低下していると指摘しています。技術知識の乏しい犯罪者でも洗練されたボットネットを維持できる構造が生まれつつあり、こうした攻撃手法や構築手順がネット上の犯罪者コミュニティで悪意あるスキルとして流通する二次被害への懸念も高まっています。