IQAX、AIとブロックチェーンeBLを活用したデジタル貿易インフラを推進――サプライチェーンの事前予測型運用へ
要点
- サプライチェーン技術を提供するIQAXの電子船荷証券(eBL)発行実績が100万件を突破した。
- GSBNブロックチェーン基盤上でDCSAやISO等の業界標準規格に準拠し、貿易書類・金融・保険・税関データを接続する相互運用性を重視している。
- 9万2,000台超のIoT機器とAI、5種のデジタルツインを連携させ、輸送障害の事前予測や自律的な行動提案を行う体制を構築している。
- 2025年7月のペルー産ブドウ輸送で輸送期間を10日短縮しコストを20%削減したほか、コールドチェーンの事前検査作業を最大70%削減可能としている。
- 中国に加えてインドや中南米市場、書類手続きが複雑な混載貨物(LCL)分野への展開を進めている。
デジタル貿易およびサプライチェーン向け技術を手がけるIQAXが、電子船荷証券(eBL)や人工知能(AI)、デジタルツインなどを統合した次世代のデジタル貿易インフラの構築を進めていることが明らかになった。中国のテックメディアTechNodeが2026年9月21日付で報じた。同社CEOのジョージ・グオ(George Guo)氏への取材により、従来の事後対応型物流からAIを活用した事前予測型サプライチェーン管理への転換が進められている実態が伝えられている。
100万件を超えたeBLとシステム間の相互運用性
国際海上輸送において貨物の受領や所有権を証明する船荷証券は極めて重要な書類だが、紙の文書を送付する従来の手続きでは数日から数週間を要し、高速化するサプライチェーンのボトルネックとなっていた。IQAXの発表によると、同社が提供する電子船荷証券(eBL:船荷証券を電子化した文書)の発行件数はすでに100万件を突破したという。
グオ氏は、eBLの価値は単なるペーパーレス化にとどまらないと指摘している。信頼性の高いデジタル環境へ移行することで、従来は分断されていた貿易金融、保険、税関、コンプライアンス、書類交換などのプロセスとのデータ連携が可能になる。
同社のeBLソリューションはGSBNブロックチェーン基盤上で構築されており、DCSA(デジタル・コンテナ・シッピング協会)やBIMCO(国際海運協議会)、ISO(国際標準化機構)などの業界標準規格をサポートしている。グオ氏によれば、多数の関係者が異なるシステムを利用する貿易の現場において、単一のプラットフォームへの統合を求めるのではなく、異なるシステム同士が安全にデータをやり取りできる「相互運用性」を確保することが現実的かつ不可欠なアプローチだという。
「可視化」から「予測」へ移行するAIと自律型エージェント
サプライチェーン上のデータ量が増加するなか、企業の関心は単に「貨物が今どこにあるか」を把握する可視化から、データが示す意味を理解し「次に何が起きるか」を予測する段階へ移行している。
IQAXでは、船舶の到着予測、サプライチェーンのリスク特定、コールドチェーン(低温物流)の監視といった領域にAIを適用している。さらに同社は、データの分析にとどまらず、異常の検知、リスクの予測、具体的な対応策の推奨までを一貫して行う自律型AI(Agentic AI)の活用も進めている。
例えば船舶の遅延が検知された場合、AIは単に遅れを報告するだけでなく、どの貨物や顧客、商取引の契約に影響が及ぶかを分析し、輸送ルートや運用計画の事前調整を支援する。
IoTとデジタルツインによる物理・デジタル空間の統合
IQAXは、AIやブロックチェーンに加えてデジタルツイン(現実の物理的対象をデジタル空間上に再現するモデル技術)の活用も進めている。同社のデジタルツインシステムには、以下の5つのモデルが含まれる。
- 船舶ツイン(Vessel Twins)
- 運航スケジュールツイン(Schedule Twins)
- コンテナツイン(Container Twins)
- 気象ツイン(Weather Twins)
- ターミナルツイン(Terminal Twins)
これらのモデルにより、現実空間の変化を把握し、その影響をシミュレーションできる。温度管理が厳格に求められる医薬品輸送を例にとると、IoT機器が貨物の状態を常時監視し、AIが異常パターンを検知して警告を発する。さらにデジタルツインが輸送障害による配送への影響を予測し、ブロックチェーン基盤のeBLを通じて書類、金融、保険、認証、コンプライアンスの手続きを連動させる仕組みとなっている。
同社のモデルでは、IoTが現実空間からデータを収集し、デジタルツインが動的モデルを生成し、AIがデータ分析と意思決定支援を行い、ブロックチェーンが検証可能な記録を保持する役割を担っている。
コールドチェーンの効率化とペルー産ブドウ輸送の実績
同社のAI搭載IoTプラットフォームは、200以上の地域、1万1,000の都市ペア、約9万2,000台の接続機器をカバーしている。温度管理が不可欠なコールドチェーン分野では、IoTとAIを組み合わせてコンテナ温度や機器の状態を常時監視し、初期段階でのトラブル検知を可能にしている。これにより、出航前に行うコンテナの事前検査(PTI:Pre-Trip Inspection)に伴う手動作業の負荷を最大70%削減できるとしている。
また、実際の運用成果として2025年7月に実施されたペルー産ブドウの輸送事例が紹介された。ペルーのカヤオ港から中国の長江デルタ地域の主要港への輸送において、予測型貿易インテリジェンス、エンドツーエンドの可視化、物流計画を統合した結果、輸送期間を従来の航路より10日早い23日間に短縮し、輸送コストを20%削減することに成功したという。
国際展開と小口混載貨物(LCL)分野への注力
IQAXは中国国内にとどまらず、インドやラテンアメリカなどの海外市場へも事業を展開している。同社によると、2025年におけるブラジル向けのeBL取引量は前年比で4倍に達した。
同社は特にLCL(Less than Container Load:1本のコンテナに満たない小口貨物を1つにまとめる混載輸送)分野に注力している。LCL輸送は関与する関係者が多く、書類のやり取りや貨物の受け渡しが頻繁で複雑なため、デジタル化による恩恵が大きい領域と位置づけている。
IQAXの長期的な目標は、eBLを単独の電子文書にとどめず、貿易金融、保険、貨物の可視化、コンプライアンス、AIによる相互検証を結びつける基盤とすることである。これにより、eBLを次世代のデジタル貿易インフラの土台として機能させる方針を掲げている。