建設テックのONESTRUCTION、BIM仕様策定に特化したAI基盤モデル「Ishigaki-IDS」をAWSと開発
要点
- 建設テック企業のONESTRUCTIONが、BIM(建築情報モデル)ワークフローに特化した基盤モデル「Ishigaki-IDS」の開発手法を公開した。
- 経済産業省が主導する生成AI開発支援プログラム「GENIAC」第3期の一環として、AWSの生成AIイノベーションセンター(GenAIIC)の技術助言を受けて構築された。
- 2024年に公開されたばかりの標準規格「IDS」を巡る深刻なデータ不足に対し、合成データ生成を活用して学習データを補完した。
- CPT・SFT・RLVRの3段階からなる学習プロセスを適用し、構造化されたXML出力の精度を検証可能な報酬によって高めている。
- 分散学習インフラには、Amazon EC2のP5enインスタンスとAWS ParallelClusterを採用した。
建設テクノロジーのスタートアップ企業である株式会社ONESTRUCTIONとアマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(AWS Japan)は2026年8月11日、BIM(Building Information Modeling)の仕様策定に特化した基盤モデル「Ishigaki-IDS」の開発に関する技術事例を公開した。
本プロジェクトは、国内のAI開発力強化を目指すプロジェクト「GENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)」第3期の一環として実施され、AWSの専門組織「AWS Generative AI Innovation Center(GenAIIC)」から技術アドバイザリーを受けて進められた。建築業界におけるデータ不足の課題を乗り越え、専門性の高い業界標準フォーマットを正確に扱えるAIモデルを構築したという。
背景にあるBIM運用の難しさと専門知識の壁
日本の建設業界では深刻な人手不足が続いており、設計・施工・維持管理の各工程で情報を一元共有できるBIMの活用が国家規模で推進されている。BIMとは、建物の立体的な形状情報に加えて、材質や強度、部材の仕様といった属性情報をデジタル上で統合管理する仕組みのことだ。
しかし、BIMを実務で運用するには高度な専門知識が求められるため、学習コストの高さが普及の障壁となっていた。特に課題とされていたのが、BIMデータ(IFCモデル)にどのような情報を付与し、どう検証するかを定義するXML形式の標準規格「IDS(Information Delivery Specifications)」の作成である。なお、IFC(Industry Foundation Classes)はBIMデータを異なるソフトウェア間でやり取りするための国際標準データ形式を指す。
IDSファイルを正しく作成するには、IDS自体の文法に精通しているだけでなく、複雑なIFCの規則や数千語に及ぶ専門語彙を理解していなければならない。たとえば、一般的な「梁(はり)」という用語をIFC内の「IfcBeam」という識別子へ正確に対応づけるような知識が必要となる。Ishigaki-IDSは、BIMの専任者ではない実務担当者であっても属性情報の確認や管理を行えるようにし、この作業負担を低減することを目指して開発された。
専門分野特有の「データ不足」と語彙注入の課題
Ishigaki-IDSの開発にあたっては、ニッチな専門領域ならではの複数の課題が存在したという。
最大の障壁となったのが、学習用データの圧倒的な少なさである。IDS規格自体が2024年に策定・公開された新しい標準規格であることに加え、建設分野はもともと一般公開されているウェブ上のコンテンツが限られている。金融、医療、法務といった領域では数十億から数百億トークン規模の公開コーパスをもとにモデルを訓練するケースがあるが、IDSに関しては同等の公開データセットが存在しなかった。最新のウェブデータを収集しても情報量と深さが足りず、公開データのみからモデルが十分な文脈を獲得することは困難だったと説明している。
さらに、数千語にわたるIFC独自の専門用語体系をモデルへ正確に注入する必要があった点も、モデル構築における大きな難所となっていた。
合成データ生成と3段階の学習アプローチ
これらの課題を解決するため、開発チームは独自の学習手法とパイプラインを設計した。
まず、データの絶対的な不足を補う手法として合成データ生成(Synthetic Data Generation)を導入した。これにより、公開データだけでは網羅できないIDSやIFCに関する専門的な学習サンプルを人工的に作り出し、データセットの量と質を確保した。
モデルの学習パイプラインには、領域特化を目的とした以下の3段階のアプローチが採用されている。
- CPT(Continual Pre-Training / 継続的事前学習): 既存の基盤モデルに対して専門領域のテキストを学習させ、ドメイン固有の基礎知識を習得させる。
- SFT(Supervised Fine-Tuning / 教師あり微調整): 指示と回答のペアデータを用いて、特定のタスクに対応できるように出力を調整する。
- RLVR(Reinforcement Learning with Verifiable Rewards / 検証可能報酬を用いた強化学習): ルールに基づいた検証可能な報酬を与えることで、構文エラーのない構造化データを高精度に出力できるように強化学習を行う。
特にIDSのような厳密な構文規則を持つXMLファイルの生成においては、出力されたコードが規格に適合しているかを機械的に判定できるため、検証可能な報酬を活用した強化学習が有効に機能したとしている。
P5enインスタンスとAWS ParallelClusterによる分散学習
高度な専門モデルの訓練を効率的に進めるため、インフラ基盤にはAWSの計算資源が活用された。
分散学習の実行環境として、GPUを搭載した「Amazon EC2 P5enインスタンス」が使用され、クラスタ管理にはハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)環境を迅速に構築・管理できるツール「AWS ParallelCluster」が採用された。これにより、大規模な分散学習処理を安定して稼働させることが可能になったという。
ONESTRUCTIONとAWSは、今回のIshigaki-IDSの開発事例が、データが乏しい特定業界において特化型基盤モデルを構築しようとする機械学習エンジニアや技術リーダーにとって、再利用可能な実践パターンになるとまとめている。