カプコンが「RE ENGINE」にパストレーシングを導入 『PRAGMATA』と『Resident Evil Requiem』で実現する次世代の光表現
要点
- カプコンの「RE ENGINE」チームが、開発中の『PRAGMATA』および『Resident Evil Requiem』にリアルタイムパストレーシングを実装した。
- チームは2年間の研究開発を経て、独自のレファレンス版を構築した上でゲーム向けに最適化したパストレーサーを開発した。
- NVIDIA RTX Kitや「DLSS Ray Reconstruction」などを採用し、リアルタイムでの高品質なノイズ除去と描画を実現している。
- 直接照明と間接照明の双方をパストレーシングで処理することで、ゲームプレイとカットシーンのクオリティ差が大幅に縮小した。
- 本技術の導入は単なるグラフィックスの向上にとどまらず、アセット制作や開発フロー全体の変革をもたらしている。
リード文
株式会社カプコンのゲーム開発エンジン「RE ENGINE」開発チームが、開発中の新作タイトル『PRAGMATA』と『Resident Evil Requiem』に対し、光シミュレーション技術である「パストレーシング」を同時に導入した。NVIDIAの技術ブログがインタビューで明らかにした。2年間にわたる研究開発を経て実現したこの取り組みは、かつてオフライン映像制作などに限られていた最高峰のグラフィックス品質をリアルタイムのゲーム体験へと落とし込んでいる。
没入感を高めるライティング統合への要求
カプコンの「RE ENGINE」開発チームは、より没入感のある体験を生み出すため、以前からレイトレーシング(画面の各ピクセルから光線を追跡して反射や屈折を計算する技術)の開発を進めてきた。
『PRAGMATA』や『Resident Evil Requiem』は、暗い雰囲気や複雑な素材、自然な反射といったライティング要素がプレイヤー体験を定義する上で重要となる。制作現場からは、間接光や反射が個別に調整されることなく、シーン全体に自然になじむ統合的な光の表現が求められていた。
NVIDIAのパストレーシングやフレーム生成技術の進化、高性能ハードウェアの普及といった条件が合致したことで、開発チームは実用化へと舵を切った。開発段階のビルドで、かつて個別に微調整していた光が調和し、一つの空間を結んだのを見たとき、チームは次世代のリアルタイムライティングの実現を確信したという。
2年間のロードマップと技術の最適化
開発チームは、両タイトルのリリースに向けて2年間を費やし、描画品質の向上に取り組んだ。まず物理的に正しいライティング挙動を極めるための「レファレンス パス トレーサー(基準となるシミュレーター)」を構築した。このレファレンス版は、一般的なDCCツール(3Dグラフィックスを制作するためのコンテンツ制作ソフトウェア)のパストレーサーと光の挙動を突き合わせて検証し、精度を磨いた。
次に、この処理を実時間で動作するように調整した「ゲーム向けパス トレーサー」を構築した。このゲーム向け版は、効率的な光線追跡を実現する「NVIDIA RTX Kit」をベースにしており、AIを用いて光のノイズを高度に除去する「DLSS Ray Reconstruction(レイ再構成)」での処理に最適化されている。
実際の組み込み作業はテクニカルアーティスト(グラフィックスの最適化やゲーム内への統合を担当する専門職)が先頭に立って主図し、2つの異なるタイトルに対して同時に技術を導入することが可能になった。
従来のレイトレーシングとの違いと具体的な進化点
新たに構築されたパストレーシングパイプラインは、従来のレイトレーシング技術と比較して大きな進化を遂げている。
従来のレイトレーシングは反射や一部の間接光などの表現に留まり、直接照明には「シャドウマップ(光源からの距離情報を記録して影を描く従来の手法)」が使われていた。そのため影の精密さに欠け、カットシーンなどでは手作業で影を調整する必要があった。
しかし、パストレーシング(光の経路を物理的にシミュレートし、あらゆる影や反射を統合的に計算する技術)の導入により、直接照明もすべてパストレーサーを介して処理されるようになった。これにより、キャラクターに投影される影や間接光がより立体的で自然なものへと向上し、ゲームプレイ画面とカットシーンとの間にある視覚的なクオリティ差が劇的に解消された。
さらに、髪の毛を一本一本細いポリゴン線として個別に描画する「ストランドヘア」の描写において、リアルタイムでの光の透過処理が正しく行われるようになり、キャラクター描写の説得力が一段と増した。
開発現場におけるパイプラインと体制の変革
パストレーシングの本格的な導入は、グラフィックスの向上にとどまらず、アセット制作や質感の処理、そして品質管理など、制作パイプライン全体の根本的な転換点となった。
実装時は、ぼかしフィルターを用いた透明なランプシェードの処理など技術的難題が生じたが、チーム内で課題や解決策を共有し克服した。
開発チームは、この最先端技術を最大限に活かすためにはエンジニアだけの力では不十分であると考えていた。そのため、グラフィックスアセットを実際に制作するアーティストやテクニカルアーティストなど、エンジニア以外のスタッフに対しても知識の共有とトレーニングを継続的に実施した。技術そのものの進化に加え、それを実際のゲーム開発現場にシームレスに組み込むための制作体制やノウハウを構築できたことこそが、今回の実装を成功に導いた要因であると説明している。