コンデナスト、BedrockとOpenSearchでマルチモーダル動画検索を構築──14万本の探索時間を250分から2分未満に短縮
要点
- 米メディア大手のCondé Nastが、AWSの支援組織と連携してAIを活用したマルチモーダル動画探索システムを構築した。
- 映像・音声・文字起こしを統合解析する「TwelveLabs Marengo」モデルをAmazon Bedrock経由で導入し、自然言語による意図検索と正確なタイムスタンプ特定を可能にした。
- 従来はタイトル確認や手作業での再生位置確認に1タスク平均250分を要していたが、導入後は2分未満へ大幅に短縮された。
- 14万本以上の動画を処理するため、埋め込み生成処理と検索クエリ処理を分離したアーキテクチャを採用し、処理性能とガバナンスを両立させた。
リード文
米メディア大手のCondé Nast(コンデナスト)が、Amazon Web Services(AWS)の生成AIイノベーションセンター(GenAIIC)と連携し、AIを活用したマルチモーダル動画探索ソリューションを構築したことが、2026年9月29日付のAWS公式ブログで明らかになった。Amazon BedrockとAmazon OpenSearch Serviceを活用することで、14万本を超える動画アーカイブから目的のシーンを探し出す時間を、従来の平均250分から2分未満へと大幅に削減したという。
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14万本の動画資産と「250分」の探索負荷──手作業と属人化が抱えていた課題
『Vogue』『GQ』『Vanity Fair』『Wired』などの著名メディアブランドを展開するCondé Nastでは、編集チームが過去の動画資産を活用する際、目的のクリップを探し出すプロセスに大きな課題を抱えていた。同社が保有する動画ライブラリは14万本以上に及ぶが、従来の検索ツールでは動画の内容そのものを直接検索することができなかった。
そのため、編集スタッフは動画のタイトルや概要欄のテキストを手がかりに検索し、目当てのシーンが含まれているかを確かめるために、動画の再生バーを手動で前後させながら中身を目視確認(スクラビング)していたという。この作業には、1回のコンテンツ探索タスクあたり平均で250分(4時間以上)もの時間が費やされていた。メディアビジネスにおいて、トレンドや出来事に合わせてコンテンツを市場へ投入する速度は収益獲得に直結するため、この手作業による探索負荷は各ブランドにおける運用上の大きな足かせとなっていた。
さらに、特定のアセットがどこにあるかは個々のスタッフの記憶や知識に依存しており、担当者が不在の際には業務が滞るという単一障害点(特定箇所の停止が全体に影響する問題)も発生していた。また、タイトルや説明文に検索クエリと一致するキーワードが含まれていない優れた動画が、アーカイブ内に埋もれたまま活用されないという構造的な問題も生じていた。
映像・音声・文字起こしを統合する「TwelveLabs Marengo」とセマンティック検索
こうした課題を解決するため、Condé NastはAWS Generative AI Innovation Center(GenAIIC)と提携し、動画内の「文字起こし」「映像要素」「音声」を横断して検索できるAI搭載のマルチモーダル探索ソリューションの開発に着手した。
同社が従来のキーワード検索から移行した背景には、編集現場における検索の実態がある。編集チームが検索する際、「yoga_tutorial_march_2024.mp4」のような特定のファイル名を探すことは稀であり、実際には「落ち着いた背景の初心者向けヨガコンテンツ」や「ファッションウィークの舞台裏の瞬間」といった、状況や雰囲気を表す自然言語で検索を行う。こうした検索では、単なる文字列の一致ではなく、ユーザーの検索意図を汲み取るセマンティック検索(意味や文脈を理解して行う検索)が不可欠となる。人間が入力したメタデータだけではこのレベルの意図理解に対応できないため、映像・音声・テキストのモダリティを横断して意味を捉えるベクトル埋め込み(データの特徴を数値化して意味の近さを計算する技術)が必要とされた。
この要件を満たすモデルとして、同社はAmazon Bedrock上で提供されている「TwelveLabs Marengo」埋め込みモデルを採用した。Marengoは、映像、音声、文字起こしの各シグナルをネイティブに統合してエンコードできる能力を備えており、ソリューションの中核を担っている。
大規模データに対応する分離型アーキテクチャの採用
システム設計においては、14万本を超える膨大な動画データを効率的かつ安定して処理することが求められた。そこでチームは、計算負荷が高くリソースを消費する「ベクトル埋め込み生成処理」と、低遅延な応答が求められる「検索クエリ処理」を完全に分離(デカップリング)するアーキテクチャを採用した。
もしこれらを単一のシステムにまとめたモノリシック(一体型)な構造にした場合、動画の取り込み処理能力と検索時の応答速度の間でトレードオフが発生してしまう。処理層を分離したことで、データ取り込みと検索の双方が独立してスケールし、障害に対応し、個別に機能をアップデートできる柔軟性が確保された。この設計は、過去に蓄積された14万本以上の動画を一括してインデックス化するバックフィル処理(過去データの一括移行処理)において、極めて重要な役割を果たしたと説明されている。
BedrockとOpenSearchによる検索フローとガバナンス体制
構築されたシステムの全体構成では、まずAmazon Bedrock上のTwelveLabs Marengoモデルによってマルチモーダルなベクトル埋め込みが生成され、検索データベースである「Amazon OpenSearch Service」にインデックスとして登録される。
ユーザーが自然言語で検索クエリを入力すると、専用に構築されたクエリ層がその入力をベクトル検索へと変換し、OpenSearchから動画内の正確な該当タイムスタンプ(再生位置)を特定して結果を返す仕組みとなっている。
また、基盤モデルのアクセスにAmazon Bedrockを選択した理由として、単一のAPI経由で多様な基盤モデルを利用できる柔軟性に加え、AWSのエンタープライズ向けガバナンス機能が適用できる点が挙げられている。具体的には、アクセス権限を制御するAWS Identity and Access Management(IAM)、ネットワークを分離して保護するAmazon Virtual Private Cloud(Amazon VPC)、および操作ログを記録するAWS CloudTrailなどを組み合わせることで、強固なセキュリティと管理体制を維持しながらAIソリューションを運用できるとしている。