OWN NEWS GATHER
← 戻る
The Hacker News

Linuxカーネルに18年前から存在する脆弱性「SCTPhantom」が判明、コンテナエスケープやRoot権限奪取の恐れ

要点

  • LinuxのSCTP通信プロトコルに、ローカルユーザーがホストのroot権限を取得してコンテナからエスケープできる脆弱性が存在することが判明した。

  • 「SCTPhantom」と命名されたこの脆弱性は2008年から存在しており、2026年8月3日にリリースされた安定版カーネルで既に修正されている。

  • Tencentの研究チームは、AIを利用した独自の検証パイプラインを用いて本脆弱性を発見し、複数のLinuxディストリビューションで実証に成功した。

  • 脆弱性の影響はローカル環境に限定され、SCTPプロトコルが有効な場合にのみ脅威となるため、不要な環境ではモジュールの無効化が推奨される。

  • Linuxの通信プロトコル実装に、18年前から存在していた深刻な脆弱性が含まれていることが明らかになった。中国Tencentのセキュリティ研究部門「Tencent Zhuque Lab」が2026年8月6日に詳細を公開した。「SCTPhantom(CVE-2026-64564)」と命名されたこの脆弱性は、ローカルの一般ユーザーが管理者権限(root権限)を奪取したり、コンテナ環境からホスト環境へエスケープしたりする恐れがあるという。

AI支援により発見された長期休眠のバグ

SCTPhantomは、LinuxカーネルのSCTP(Stream Control Transmission Protocol:複数のネットワーク経路を同時に利用して通信を行うトランスポート層プロトコル)における「use-after-free(メモリ解放後使用)」の不具合だ。このバグは2008年のLinux 2.6.25のリリースから存在しており、18年間潜み続けていた。

今回の脆弱性は、Tencentが構築したAI活用の研究パイプライン「Corvus AI」が発見した。近年、AIの支援で長年休眠していたカーネルの脆弱性が見つかる事例が増えており、2026年7月にも15年前の脆弱性「GhostLock」が同様の手法で検出されている。

メモリ解放後使用が発生する仕組み

脆弱性は、SCTPの「動的アドレス再構成(接続中に通信アドレスを追加・削除できる機能)」における識別エラーに起因する。

カーネルはアドレスの削除リクエストを受信した際、パケットの送信元アドレスと照合して検証を行うが、実際の削除処理はメッセージ内の別アドレスによって選択された経路に対して実行してしまう。これにより、アドレス追加、削除、ワイルドカード削除を1つのメッセージ内で連続して行うと、経路が解放された後も古いポインタが参照され続け、すでに解放されたメモリ領域を指すメモリ解放後使用の状態が発生する。修正パッチでは、現在処理中の経路に対する削除要求を拒否するよう変更された。

実証実験とコンテナエスケープの検証

Tencent Zhuque Labは、Debian 13やUbuntu 24.04、Rocky Linux 9、RHEL 9、OpenCloudOSの環境でテストを行い、root権限の取得に成功したと報告している。

また同ラボは、デフォルトの「seccomp」(コンテナが実行できるシステムコールを制限する機能)を適用し、特別な特権を与えていない制限されたコンテナ環境から、8回中6回の割合でホストのroot権限を奪取してエスケープできたと主張する。当初の実証コードは特定のシステム設定と権限を前提としていたが、その後にソケット単位で設定を有効にする方法を発見し、特権なしでのエスケープを可能にしたという。

ただし、このコンテナエスケープは他者による再現がされておらず、検証に使用されたコンテナランタイム(コンテナの実行環境を提供するソフトウェア)の具体的な名称も明記されていない。ラボ自体も、環境設定によって影響度は変化すると指摘している。なお、中国の「openKylin」のアドバイザリでは、本脆弱性の影響はカーネルパニック(OSの致命的なハングアップ)やサービス拒否(DoS)にとどまると報告されている。

深刻度の評価と対策状況

本脆弱性の深刻度は未確定である。Tencent側はCVSS v4.0(脆弱性の深刻度を評価するシステム)で「8.5」と評価しているが、米国のNVD(国家脆弱性データベース)による公式スコアは2026年8月7日時点で未設定であり、CISA(米サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁)の既知の悪用された脆弱性カタログにも登録されていない。

修正プログラムは、2026年8月3日にリリースされたLinuxカーネルの安定版「7.1.6」「6.18.42」「6.12.101」「6.6.148」に適用されている。ただし、OSベンダーはカーネルのバージョン番号を上げずに修正のみをバックポート(特定の修正パッチのみを旧バージョンに移植して適用すること)する場合があるため、バージョン番号だけでの判断は難しく、個別のディストリビューション情報の確認が推奨される。

また、8月6日にはSCTP関連で別のメモリ解放後使用の脆弱性も修正されたが、これは8月3日の安定版には含まれていない。SCTPが不要な環境であれば、モジュールの読み込みを無効化することで攻撃対象領域を完全に排除できる。

補足

なお、本脆弱性の修正が適用された8月3日リリースの安定版カーネルには、同じくコンテナエスケープの懸念が指摘された仮想化技術KVMに関する脆弱性「Zapscape」の修正プログラムも同時に同梱されている。

元URL