米政府、民間企業による外国サイバー犯罪組織への侵入・妨害活動を許可へ 新プログラムの創設を指示
要点
- トランプ米大統領が、審査を通過した米国の民間企業による外国の国際組織犯罪グループ(TCO)への侵入および妨害活動を許可する大統領覚書に署名した。
- 国家調整センター(NCC)に対し、承認を受けた民間企業がサイバー監視やインフラの妨害・破壊作戦を実施できるプログラムを60日以内に立ち上げるよう命じた。
- 作戦の対象は、米国政府や米国人、米国の国益を標的とする外国のサイバー犯罪グループであり、外国政府の直接的な統制下にない組織に限定される。
- 米国人や米国内のシステムが誤って対象となった場合は作戦を即時中止し、影響を最小化するとともに司法省へ報告することが義務付けられている。
- 米国民のサイバー犯罪被害が約208億ドルに上るなかでの施策だが、民間企業による攻撃作戦には法的・安全保障上のリスクを指摘する見解もある。
米国のドナルド・トランプ大統領は2026年8月、連邦政府の監督下にある民間のサイバーセキュリティ企業などが、外国の国際組織犯罪グループ(TCO:国境を越えて活動する犯罪組織)のシステムへ侵入し、その活動を妨害できるようにする新たな大統領覚書に署名した。
国家調整センター(NCC)に対し、民間企業が持つ高度な技術力を活用してサイバー作戦を展開するためのプログラムを、60日以内に設立するよう指示している。米国市民や国家を狙う国境越えのサイバー犯罪に対抗するため、民間の攻撃的サイバー能力を政府主導で動員する方針が示された形だ。
60日以内に制度化される2つのサイバー作戦
公表された覚書によると、NCCは承認制の枠組みを構築し、審査を経た民間企業に対して2つの主要な作戦の実施を許可する計画だ。
1つ目は「サイバー監視作戦」であり、標的となるシステムの所有者や管理者の許可を得ることなく、機密データへアクセスして情報を収集する活動を指す。2つ目は「サイバー効果作戦」と呼ばれ、対象組織の情報システム、ネットワーク、インフラに対して、機能の混乱・停止、アクセス拒否、性能低下、あるいは物理的・論理的な破壊をもたらす活動が含まれる。
覚書では、連邦政府の指示と監督のもとで適切な審査を受けた米国の民間企業と連携することで、米国市民に対する国際的なサイバー犯罪や詐欺、搾取スキームへの対処能力を大幅に高められるとしている。
参加企業の条件と標的となる犯罪組織の定義
このプログラムに参加できるのは、米政府の審査プロセスを通過し、正式にイニシアチブへ受け入れられた米国の民間企業に限定される。企業が独自判断で攻撃を行うのではなく、米国政府の指示と承認を受けた範囲内でのみサイバー作戦が実行可能となる。
作戦の標的として想定されているのは、米国政府、米国の個人、または米国の国益に対してサイバー犯罪を行う外国の組織だ。ただし、外国政府の正式な機関の一部である組織や、外国政府の直接の指示下で完全に運営されている組織は原則として対象から除外され、国家との明確な関係性が証拠によって裏付けられている場合を除き、純粋な犯罪集団がターゲットとされる。
作戦制限の逸脱防止と司法省への通報義務
プログラムでは、作戦が承認された制限やパラメータを超えた場合の厳格な安全措置も義務付けられている。
企業が作戦行動中に、誤って米国人や米国内に所在する情報システム、あるいは米国人の管理下にあるシステムを標的にしてしまった場合、該当する作戦を直ちに中止しなければならない。その上で、収集されたデータの破棄や遮断など影響を最小限に抑える「最小化手続き」を実施し、即座にNCCへ報告することが求められている。報告を受けたNCCは、速やかに米司法省(DOJ)へ通報する責務を負う。
深刻化する消費者被害とこれまでの経緯
ホワイトハウスは2026年3月にも、米国市民を標的とする国際犯罪組織のサイバー犯罪や詐欺を撲滅する計画を発表していた。これらには、ランサムウェアやマルウェアの配布をはじめ、フィッシング、金融詐欺、セクストーション(性的画像などを用いた脅迫)、豚の屠殺詐欺(投資名目で信用させて多額を騙し取る詐欺)、なりすましなどが含まれる。
今回の覚書に付随して公開されたファクトシートによると、米国の消費者がサイバー関連犯罪によって被った被害額は、推定で208億ドル(約3兆円超)に達しているという。政府は、多発する悪質なオンライン犯罪から国民を保護するために、民間との連携強化が不可欠であると強調している。
法的リスクへの懸念と国際的な動向
トランプ政権による今回の動きは、米国の敵対勢力に対する攻勢的サイバー作戦(相手のシステムへ攻撃・侵入して活動を抑止する作戦)において民間部門が担う役割を大きく広げるものとなる。一方で、専門家からは法的な問題や安全保障上のリスクを懸念する声も上がっている。現行の米国法では、裁判所の令状や許可なしに民間企業が他者のシステムに対してサイバー攻撃や妨害工作を行うことは禁じられているためだ。
なお、攻撃的なサイバー対処能力を強化する動きは米国にとどまらない。ドイツ政府においても、連邦情報局(BND)や連邦憲法擁護庁(BfV)といった情報機関に対し、敵対的なサーバーの解体や外国サイバーネットワークの妨害、国家支援型ハッカーへのハックバック(逆攻撃)、サプライチェーンの妨害などを認める広範な権限を与える法案が承認されるなど、国際的にも対抗措置を強化する動きが進んでいる。