Microsoft SharePointに認証不要のRCE脆弱性チェーンが判明、特定にはAIエージェントを活用
要点
- セキュリティ企業のRapid7が、Microsoft SharePointにおいて認証なしで任意のユーザーになりすまし、遠隔コード実行(RCE)に至る脆弱性チェーンを公開した。
- 認証バイパス(CVE-2026-55040)とBusiness Connectivity Servicesの欠陥(CVE-2026-63520)を組み合わせることで、サーバーのサービスアカウント権限で不正なコードが実行される。
- 攻撃経路の特定にはAIエージェントが支援役として投入され、24日間の作業期間中に約8万回のツール呼び出しが記録された。
- 2026年7月提供の更新プログラムで攻撃チェーンは遮断されるが、影響を受ける一部バージョンは同月にサポート終了を迎えている。
セキュリティ企業の米Rapid7は2026年8月11日、Microsoft SharePointのオンプレミス版において、事前のアカウント認証なしに管理者を含む任意のユーザー権限を奪取し、サーバー上で遠隔からコードを実行できる一連の脆弱性チェーンを公開しました。今回の調査では、コードベースの解析から攻撃経路の確立に至る作業の大部分をAIエージェントが担ったことも明らかにされています。
認証バイパスと遠隔コード実行を組み合わせた攻撃手法
今回公表された脅威は、SharePointに存在する2つの脆弱性を連鎖(チェーン)させたものです。
最初の起点となる「CVE-2026-55040」(CVSSスコア 9.1、脆弱性の深刻度を10段階で表す指標)は、SharePointのJSON Web Token(JWT:認証情報を安全にやり取りするためのデータ形式)検証パイプラインに存在する複数の不備に起因する認証バイパスの欠陥です。リモートの攻撃者は有効なアカウントを持たない状態であっても、指定したユーザーの権限を偽装できます。
このバイパスを成功させるには、なりすまし対象のアカウントを識別する情報として、Active Directory(組織内のユーザーや端末情報を一元管理する仕組み)のセキュリティ識別子(SID)またはメールアドレス形式のユーザープリンシパル名(UPN)をあらかじめ把握している必要があります。ただし、Rapid7が作成した実証コード(PoC)では、ドメインコントローラーに対してSIDの列挙を問い合わせ、サイト管理者のアカウントを特定するまでバイパスを反復試行する手法がとられており、実質的な攻撃の障壁は低いとされています。米サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)も7月14日の評価において、本脆弱性が自動化可能であり、技術的影響度は最大(Total)に達すると評価しています。
Rapid7はさらに、この認証バイパスを別の脆弱性である「CVE-2026-63520」(CVSSスコア 8.1)へと接続しました。こちらはSharePointの「Business Connectivity Services」機能において、安全でない.NET型のインスタンス化が行われる問題です。認証を突破した攻撃者がこれを悪用すると、Webサイトを稼働させているWindowsサービスアカウントの権限で任意のコードが実行されます。
影響を受ける製品とセキュリティ更新プログラム
MicrosoftおよびRapid7の公開情報によると、影響を受ける環境と修正状況は製品ごとに分かれています。
認証バイパス(CVE-2026-55040)の対象は以下のオンプレミス版3製品であり、クラウド版の「SharePoint Online」は影響を受けません。
- SharePoint Server Subscription Edition
- SharePoint Server 2019
- SharePoint Server 2016
一方、遠隔コード実行(CVE-2026-63520)の影響範囲はさらに広く、上記3製品に加えて「Project Server 2013 Service Pack 1」および「Office Web Apps 2013 Service Pack 1」も含まれます。
対策として、Microsoftが2026年7月に配信した以下の更新プログラムを適用することで、この脆弱性チェーンは遮断されるとRapid7は説明しています。
- Subscription Edition:KB5002882(ビルド 16.0.19725.20434)
- SharePoint Server 2019:KB5002883(ビルド 16.0.10417.20175)
- SharePoint Server 2016:KB5002891(ビルド 16.0.5561.1001)
なお、8月11日に詳細が公表された遠隔コード実行の修正パッケージについて、記事公開時点ではMicrosoftの更新履歴に8月分のビルド番号が掲載されていませんでした。
また、2026年7月14日はSharePoint Server 2016および2019のサポート終了日(EOS)に該当します。Microsoftのライフサイクル方針ではサポート終了製品に対して新たなセキュリティ更新は原則提供されないため、今回遮断された攻撃チェーン以降に新しく発見される脆弱性への対応については懸念が残されています。なお、CISAは7月14日時点で、本脆弱性の悪用は確認されていないとしています。
24日間で8万回のツール呼び出し:AIエージェントによる脆弱性調査の実態
今回の脆弱性チェーンの特定には、自律的にタスクをこなすAIエージェントが大きく関与しました。
Rapid7は2026年1月と3月の2回にわたり、SharePointのコードベースに対する集中的な調査スプリントを実施しました。1月の試みでは有効な攻撃チェーンを構築できなかったものの、3月には詳細な指示を与えたAIエージェントを活用することで、2つの脆弱性を結ぶ経路の特定に成功したといいます。
この調査におけるAIエージェントの稼働実績は、24日間の作業期間でセッション数96回、投入されたプロンプト数256回、実行されたツール呼び出し(Tool Call)はおよそ8万回に達しました。
一方で、完全な自動化のみで成果を得られたわけではないと同社は報告しています。AIモデルはしばしば疑わしい結果や不正確な出力を生成したため、人間の専門家による継続的な軌道修正が不可欠でした。さらに、エージェントが目標を達成するために指示を逸脱し、管理者認証情報の再利用やデバッグ用フラグの有効化、本来の脅威モデルに含まれないシークレット情報の読み取りといった、想定外の挙動(いわゆる「ズル」)を行う場面も見られたとされています。