MicrosoftのBing画像検索に深刻な脆弱性、細工されたSVGファイルでサーバー制御権を奪取される恐れ
要点
- Microsoftの検索エンジン「Bing」の画像検索機能に、細工されたSVGファイルを読み込ませることで、システム最高権限のコマンドを実行できる脆弱性が存在していた。
- 脆弱性を発見したセキュリティ企業XBOWは、実証テストにおいて、WindowsサーバーではSYSTEM権限、Linuxサーバーではroot権限でコマンドが実行できることを確認した。
- Microsoftは本脆弱性に対して2件のCVE(共通脆弱性識別子)を発行し、深刻度を最大級の「9.8」と評価した。
- Microsoftは2026年3月にサーバー側での対策を完了させており、利用者が個別に対処する必要はない。
- 発見者の要請と修正の適用完了を待ち、XBOWは2026年7月23日にこの脆弱性のエクスプロイト(攻撃手法)の詳細を公開した。
リード文
Microsoftが提供する検索エンジン「Bing」の画像検索機能において、特定の画像ファイルを読み込ませることで、同社の画像処理サーバーを最高権限で不正に操作できる極めて深刻な脆弱性が存在していたことが判明した。自律型オフェンシブセキュリティ(自動化された疑似攻撃によって防御力を検証する手法)のスタートアップ企業である米XBOWが脆弱性を発見し、2026年7月23日にその詳細な技術情報を公開した。なお、Microsoftはすでにサーバー側での修正を終えており、ユーザー側での対応は一切不要であるとしている。
画像処理の根幹に潜んでいた脆弱性
今回明らかになったのは、Bingの画像検索システムにおいて、悪意を持って細工されたSVG(XMLと呼ばれるテキスト形式で記述され、拡大縮小しても画質が劣化しないベクター画像形式)ファイルを処理する際に発生する脆弱性である。
XBOWが実施した実証テストにおいて、この脆弱性を利用することで、Microsoftが運用する画像処理用のWindowsサーバーで「NT AUTHORITY\SYSTEM」(Windows OSにおける最上位の管理権限)、Linuxサーバーで「root」(Linuxにおける最上位の管理権限)として任意のシェルコマンドを実行できることが確認された。この問題は、異なるホストやネットワーク範囲にある複数の処理サーバーで一貫して再現されたため、単一のマシンの設定ミスではなく、Bingの画像処理システム全体に共通する構造的な問題であることが示されている。
クリティカルな評価と2つの攻撃経路
Microsoftはこの脆弱性に対し、2件のCVE(共通脆弱性識別子)を発行した。いずれも脆弱性の深刻度を示すCVSS(脆弱性の深刻度を評価するグローバルな指標)スコアで、最大値10に近い「9.8」と判定され、「クリティカル(緊急)」に分類されている。
この脆弱性には、以下の2つの異なる攻撃経路が存在していた。
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CVE-2026-32194(CWE-77 コマンドインジェクション)
ユーザーがブラウザから直接画像をアップロードして検索する「画像で検索(Search by Image)」機能を利用した経路。攻撃者は、Base64(データを特定の64文字の英数字に変換するエンコード方式)でエンコードしたSVGファイルを、画像データ用のフィールドである「imageBin」として特定のAPIエンドポイント(/images/kblob)に送信することで、サーバー側でコマンドを実行させることが可能だった。 -
CVE-2026-32191(CWE-78 OSコマンドインジェクション)
Web上の画像をURL指定で検索する、またはBingのクローラー(Web上の情報を自動的に収集して巡回するプログラム)に読み込ませる経路。攻撃者が外部のサーバーにSVGファイルを配置し、そのURLを「imgurl」パラメータとして指定すると、Bingの検索クローラーである「bingbot/2.0」がそのファイルを読み込み、同様に画像処理システム内でコマンドが実行される。
どちらの経路においても、ログインなどの認証手続きや、クッキー、セッション情報、さらにはユーザーによるクリック操作などは一切必要なく、外部から直接攻撃を仕掛けることが可能であった。
脆弱性の発生原因と悪用のメカニズム
本脆弱性の根本的な原因は、画像処理システムの裏側で動いていたライブラリ(ImageMagickなどの画像変換スイート)の「デリゲート機能」の仕様にある。デリゲート機能とは、画像処理ライブラリ自体がサポートしていないファイル形式を処理する際、外部のプログラムを呼び出して代わりに処理させる仕組みである。
通常、SVGは単なるピクセルデータの集まりではなくXMLテキストであるため、内部に別の画像ファイルをリンクとして参照することができる。Bingの画像検索システムでは、バックエンドが参照先の画像URLを自動的に取得する動作があった。これは一種のSSRF(サーバーに意図しない外部リクエストを送信させる攻撃手法)に相当するが、クライアント側に取得結果が返されない「ブラインドSSRF」の状態だった。
しかし、一部のサーバーではブラウザに対して500エラーを返しながらも、バックエンド側では画像の取得と解析を続行していた。解析の過程でデリゲート機能が呼び出されたが、システム上でこの機能の制限が有効化されていなかったため、画像参照パスの先頭に「|」(パイプ文字)を付与することで、それをファイル名ではなくシェルコマンドとして認識させ、実行させることができた。
XBOWは検証において、1ピクセルサイズのSVGファイルを作成し、その内部の画像参照にコマンドを埋め込んだ。これにより、サーバー上でコマンドを実行させ、その結果をXBOWが管理するサーバーへ自動的に送信させることに成功した。
徹底された検証と迅速な修正
XBOWの調査チームは、この脆弱性を特定するために数十回にわたるテストを重ねた。ImageMagickのさまざまな挙動(テキストをレンダリングする「label:」やカラー画像を生成する「xc:」などの挙動)を調べ、最終的にSVG内の画像参照部分がシェルに直接渡る経路を発見した。
実証されたWindows環境では、「Windows Server 2022 Datacenter」が稼働しており、特権の昇格に利用される「SeImpersonatePrivilege」や「SeDebugPrivilege」などのシステム特権が有効化されていた。また、実行プロセスはBingのマルチメディア画像処理コンポーネントの内部であった。なお、XBOWは今回の検証において無害な読み取り専用コマンドのみを実行しており、顧客データの漏洩やアクセスは発生しなかったと報告している。
Microsoftは、本脆弱性のアドバイザリを2026年3月19日に公開したが、これに先立ってサーバー側での修正をすべて完了させている。そのため、アドバイザリ公開時点および現在においても、この脆弱性が実際に悪用された形跡はなく、一般のユーザーが対処すべき作業はない。XBOWも、Microsoftからの要請を受け、修正が完全に反映されるまで詳細な手法の公開を控えていた。
画像処理システムにおけるセキュリティ対策への教訓
この脆弱性は、画像処理を行うシステム全般におけるセキュリティ設定の重要性を改めて浮き彫りにした。ImageMagickの公式セキュリティポリシーでも、デフォルトの設定はローカル環境や十分に保護された環境向けであり、インターネットに公開されたWebサイトでそのまま使用することは想定されていないと明記されている。
信頼できないファイルを外部から受け取って処理するシステムにおいては、画像処理ライブラリがシェルコマンドにアクセスできないようにデリゲート機能を無効化すること、不要なファイル形式の受け入れを制限すること、そして画像処理を行うプロセスをインターネットから隔離することなどの対策が極めて重要となる。