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NVIDIA Technical Blog

NVIDIA、「CUDA 13.3」でキャリーレス乗算命令「clmad」を導入 暗号処理が最大18.8倍高速化

要点

  • NVIDIAが「CUDA 13.3」において、ハードウェア加速によるキャリーレス積和演算命令「clmad」を新たに追加。

  • 本機能は「Ampere」世代以降(SM 80以上)のすべてのGPUで利用可能となり、GPUネイティブな2元拡大体の算術演算を実現する。

  • 認証付き暗号「AES-GCM」のコアとなるハッシュ処理「GHASH」において、NVIDIA B200上で最大18.8倍(秒間約6.3TB)の高速化を実証。

  • ゼロ知識証明の鍵となる「和チェックプロトコル」も3〜13倍に高速化され、既存のGPUシステムにおける暗号計算のコスト構造が変化する。

  • リード文:

  • NVIDIAは2026年7月15日、GPU開発向けツールキットの最新版「CUDA 13.3」において、ハードウェア加速に対応したキャリーレス積和演算命令「clmad」を追加したとテクニカルブログで公表した。同命令は、暗号処理や誤り訂正などの計算で広く使われる「キャリーレス乗算」をGPU上でネイティブにサポートするもので、「Ampere」以降のアーキテクチャ(SM 80以上)に対応する。これにより、Web通信の暗号化方式である「AES-GCM」や、先端的なゼロ知識証明(ZKP)の処理速度が大幅に向上する。

15年来の「ハードウェア機能のギャップ」を解消

キャリーレス乗算(桁上げ計算を行わない特殊な乗算処理)は、認証付き暗号の処理やデータの誤り訂正、さらには近代的なゼロ知識証明システムにおける基礎的な演算として欠かせない。

x86アーキテクチャのCPUにおいては、15年以上前から専用のハードウェア命令(PCLMULQDQなど)が搭載され、高速化が図られてきた。しかし、NVIDIAのGPUにはこれまでこの機能がネイティブで実装されていなかった。そのため、開発者はビットスライス回路(データを細切れにして並列処理を行うことで演算をエミュレートする手法)のような代替のアプローチをとらざるを得ず、パフォーマンス面での制約となっていた。

今回リリースされた「CUDA 13.3」は、パラレルスレッド実行(PTX)の命令セットバージョン9.3において、新しい整数演算命令「clmad」を追加することでこの課題を解決した。これにより、Ampere世代以降のGPUであれば、ハードウェアレベルで加速されたキャリーレス積和演算を利用可能になる。

「2元拡大体」演算のネイティブ対応

暗号処理では、1ビットの要素で構成される「2元体」を拡張した「2元拡大体(多項式を用いた演算が行われる有限体)」での計算が頻出する。この有限体における加算は単純な排他的論理和(XOR)で実現できるが、乗算はビット同士の掛け算とXORを繰り返す必要があり、従来のGPUでこれを再現しようとすると、ビットシフトやマスク処理が多発して処理効率が著しく低下していた。

「clmad」は、2つの64ビット入力値を掛け合わせて128ビットの結果を出力する。命令には上位64ビットを処理する「.hi」と、下位64ビットを処理する「.lo」のバリアントがあり、それぞれ結果に対して64ビットのアキュムレータ(演算結果を累積するレジスタ)の値を加算できる。

ベンチマーク結果:GHASH処理で最大18.8倍の高速化

公開された検証結果では、「clmad」を用いることで複数の主要な暗号処理で劇的な性能向上が示されている。

まず、Web通信(TLS)やデータセンターの暗号化で広く使われる「AES-GCM」のコアハッシュ関数「GHASH」での測定が行われた。最新のデータセンター向けGPU「NVIDIA B200」上でテストしたところ、従来のビットスライス回路を用いた処理と比較して、最大18.8倍となる毎秒約6.3TBのスループットを記録した。これはB200のDRAM読み出し帯域幅に近い数値である。同様の向上は、一般向けの「GeForce RTX 5090」でも確認されている。

また、ゼロ知識証明のインナーループを構成する「和チェック(sum-check)プロトコル」の性能も検証された。GF(2^128)の拡大体上での演算において、従来の処理方法と比べて3〜13倍(元記事内では4〜13倍とも言及)の高速化を達成した。これにより、「Binius」などの高度なゼロ知識証明システムで必要とされる大規模演算が現実的な時間で処理可能になる。

幅広い応用分野と展開

キャリーレス乗算の高速化は、AES-GCMやゼロ知識証明にとどまらず、多方面に好影響を及ぼす。具体的には、ストレージや通信の誤り検出に使うCRC(巡回冗長検査)やリード・ソロモン符号、フラッシュメモリのデータ破損を防ぐBCH符号、量子スタビライザー符号、さらにはポスト量子暗号の演算などが挙げられる。

NVIDIAは、今回の「clmad」の導入により、すでに稼働しているAmpere世代以降のGPUシステムにおいて、これら多様な処理のコスト構造が変化するとしている。CUDA 13.3はすでに公開されており、同社のサイトからダウンロード可能だ。

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