NVIDIAの創薬AIツール群が「Claude Science」に統合、タンパク質構造予測の自動連携に対応
要点
-
NVIDIAとAnthropicが連携し、科学研究向けAIワークベンチ「Claude Science」からNVIDIAの創薬・生命科学向けAI群「BioNeMo NIM」を直接呼び出せるようになった。
-
10年以上にわたる研究資産をエージェント向けスキルとして集約した「BioNeMo Agent Toolkit」により、多重配列アラインメントから構造予測モデルの実行までを自律的にオーケストレーションする。
-
単量体タンパク質「Seh1」および複合体の検証において、進化的アラインメント情報の入力により界面信頼度スコア(iPTM)が大幅に向上し、先行研究の知見を忠実に再現した。
-
動作環境にはNVIDIA L40SまたはH100 GPUと約700GBのストレージ容量が必要とされ、ローカルのDockerコンテナやリモート接続を介して実行される。
-
NVIDIAは2026年8月31日、同社のライフサイエンス向けAIツール群「BioNeMo Agent Toolkit」を、Anthropicの研究向けAIワークベンチ「Claude Science」に統合したと発表した。
-
本統合により、AIエージェントがNVIDIAの推論マイクロサービス「NVIDIA NIM(最適化済みAI推論マイクロサービス)」を直接検知・起動できるようになり、タンパク質の立体構造予測ワークフローを自律的に進行させることが可能になったという。
エージェント向けに最適化された「BioNeMo Agent Toolkit」
NVIDIAによると、科学研究におけるAIの活用はソフトウェア工学以上に試行錯誤が多く複雑であり、タンパク質の折りたたみや分子特性の評価には高度な専門ツールが必要となる。しかし、ツールごとに要求される動作環境やAPI仕様が大きく異なるため、汎用AIエージェントが適切なモデルの選択やパラメータ設定を自律して行うことは困難だった。
今回提供される「BioNeMo Agent Toolkit」は、NVIDIAが10年以上にわたって蓄積してきた生物学、化学、ゲノミクス、創薬分野のモデルやライブラリ、ワークフローを、AIエージェントが呼び出し可能な「スキル」として体系化したツールキットだ。あらゆるエージェントフレームワークで動作するように設計されており、NVIDIAの社内ベンチマークでは、本スキルの適用によってタスクの正答率が60%から100%に向上し、トークン効率も約2倍に改善したと報告されている。
多重配列アラインメントを活用した高精度な立体構造予測
Claude Scienceとの連携では、エージェントが多重配列アラインメント(MSA:複数の生物種のアミノ酸配列を並べて進化的な共通点や変異を比較する解析手法)を実行し、複数の立体構造予測モデルへ入力を渡して結果を比較・統合するワークフローが検証された。
具体的な検証事例として、単量体タンパク質「Seh1」および「Seh1–C1HCX1」複合体の構造予測が実施された。予測モデルには「OpenFold3」と「Boltz-2」が用いられ、MSA入力を与えた環境では、複合体の界面信頼度を示す指標であるiPTMスコアがそれぞれ0.85と0.82という高い数値を記録した。一方で、MSA入力を省略した場合、スコアはそれぞれ0.14と0.19へと大幅に低下した。NVIDIAはこの結果から、複合体の界面構造を正確に予測するためには進化情報を含むアラインメントデータが極めて重要な基盤情報になると説明している。
さらに、得られた構造データの重ね合わせ解析により、相手分子であるC1HCX1が存在する際、Seh1の立体構造は全体が再構築されるのではなく、未完成だった構造が完成する挙動を示すことが確認された。両モデルは独立して、WD40ドメインのベルクロ結合位置に同一のC1HCX1のβストランドを配置し、Han氏、Tsenkov氏、Venanzi氏らによる先行研究の観察結果を再現することに成功したという。
動作要件とClaude Science上でのセットアップ
本ワークフローを実行するためのインフラ要件として、NVIDIA L40S GPUまたはNVIDIA H100 GPUを搭載したワークステーションやクラウド環境が指定されている。ローカルマシン上でClaude Scienceを実行する形態のほか、ノートPC等からSSHやHPC、クラウド環境(Modalなど)を経由してリモートGPUに接続する形態にも対応する。
ストレージ容量は約700GBが必要とされる。内訳として、配列検索マイクロサービス「msa-search NIM」で使用するUniRef30データベース(通常1.4TBあるフルデータセットから軽量化されたプロファイル)が約490GB、構造予測モデルである「Boltz-2」および「OpenFold3」のコンテナ群が合計で30〜40GBを占める。
利用手順としては、Claude Scienceの設定画面(Customize > Compute > NVIDIA BioNeMo NIM > Connect)からGitHub経由でBioNeMoスキルをインポートし、NVIDIA APIキーの登録とホストGPU上のDockerエンドポイントへの接続を実施する。その後、新規セッション上でClaudeに対して指示を出すことで、「msa-search」「openfold3」「boltz2」の各NIMコンテナがダウンロード・起動され、疎通確認を経て解析環境が立ち上がる仕様となっている。