OpenAI、数学の難問「ナビエ・ストークス方程式問題」を社内AIで解決 約1万体のエージェント協調で特異点の発生を証明
要点
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OpenAIは、数学のミレニアム懸賞問題の1つである「ナビエ・ストークス方程式の存在と滑らかさ問題」について、社内AIシステムが解法を導出したと発表した。
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滑らかな初期状態からでも有限時間内に流速が無限大に達する「特異点」が生じることを解析的に証明し、定理証明支援言語Leanによる形式検証も完了した。
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「GPT-6 Astra」を大幅に上回る未公開の最新社内モデルを用い、約1万体のエージェントを並行稼働させる協調システムにより実現した。
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事前に粘性のないオイラー方程式の未解決問題を約50時間で解き、その知見を転用して着手から約88時間でナビエ・ストークス方程式の解に到達した。
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米OpenAIは2026年9月8日、数学における重要未解決問題「ミレニアム懸賞問題(クレイ数学研究所が選定した7つの難問)」の1つである「ナビエ・ストークス方程式の存在と滑らかさ問題」の解法を、同社が開発中のAIシステムによって導き出したと発表した。同社は解析的な証明をまとめた論文を公開したほか、定理証明支援言語「Lean(数学的証明をコンピュータ上で厳密に記述・検証するプログラミング言語)」を用いた形式検証済みのコードもあわせて公開している。
約90年にわたり未解決だった流体力学の基本命題
ナビエ・ストークス方程式は、19世紀の物理学者クロード=ルイ・ナビエとジョージ・ガブリエル・ストークスに由来する方程式で、ニュートンの運動方程式をもとに流体の動きを連続体として記述する。航空機の設計や気象予測、血流の解析など、現代の科学技術で幅広く利用されている。
同方程式における最大の未解決問題は、滑らかに運動を始めた3次元の非圧縮性流体において、連続体としての近似が破綻するかどうかという点にあった。具体的には、粘性が存在して運動を滑らかにする性質があるにもかかわらず、有限時間内で流速が無制限に増大する「特異点(物理量が発散して方程式による記述が成り立たなくなる破綻点)」が発生し得るかが問われていた。1934年にジャン・ルレイ(Jean Leray)が一般化された解の存在を示して以来、解が常に滑らかであり続けるかは未解明のまま約90年にわたり議論が続いており、2000年にはクレイ数学研究所によってミレニアム懸賞問題の1つに指定されていた。
内側に巻き込む渦構造と有限時間での特異点形成
OpenAIが発表した証明は、滑らかな外力が加わった静止状態の流体において、有限時間内に特異点が発生し得ることを示したものだ。これにより、クレイ数学研究所が提示する公式な問題定義における「命題C」および「命題D」が確立され、方程式の滑らかさが破綻する反例の存在が示された。
導出された解は、内側に向かってらせん状に巻き込みながら軸方向に細長く引き伸ばされる渦の構造をとる。この中心領域は収縮しながら加速するが、物理法則に従い、静止状態から特異点の形成に至るまで系全体のエネルギーは常に有限のまま維持されるという。
数学的な課題として、外部から無限の力を手動で加えるのではなく、流体自身の運動によって破綻が生じる必要があった。今回示された解では、加速度、圧力勾配、運動量輸送、粘性といった運動方程式の各項が極めて大きくなりつつも精密に相殺し合い、外力が滑らかでありながら流速が無制限に増大する詳細な均衡状態(詳細釣り合い)が成り立っていると説明されている。
「GPT-6 Astra」を超えるモデルと約1万体の分散エージェント
今回の証明を導いたのは、OpenAIが2026年8月28日から学習を開始した新しい社内モデルだ。同社によると、このモデルは数学を含む同社のベンチマークで前例のない性能を示しており、既存の「GPT-6 Astra」を大幅に上回る能力を持つという。現在も学習が継続されており、性能は向上し続けているとされる。
同社は9月1日(火)にミレニアム問題解決に関する噂を聞いたことを契機に、このモデルを用いて未解決のミレニアム懸賞問題などを評価する取り組みを開始した。システムにはWebキャッシュの参照やコード実行ツールを備えた自律エージェントが組み込まれ、グループ単位で通信しながら探索を行う仕組みが採られた。ナビエ・ストークス問題を担当したグループでは、最大で約1万体のエージェントが並行して稼働した。なお、運用の全過程において監視や隔離を含む厳格な安全基準が適用されたとしている。
オイラー方程式の解決から88時間で解法に到達
エージェント群には、証明を意図した定式化(バージョンAおよびB)と反証を意図した定式化(バージョンCおよびD)など、複数の前提条件が別々のグループに与えられ、多様なアプローチが探索された。
これに先立ち、システムはナビエ・ストークス方程式から粘性項を除いた「オイラー方程式の正則性問題(流体の粘性をゼロとした方程式における解の滑らかさに関する問題)」の非強制版(外力のない状態)に着手した。この問題については、約100体のエージェントが約50時間協調して探索を行い、滑らかさが破綻する反証を導き出したという。
オイラー方程式の解決を受け、同社は他問題に割り当てていたエージェントをナビエ・ストークス問題へ再配分し、オイラー方程式で得られた知見を入力として提供した。さらに、各グループが導いた有用な洞察をCodexを用いて集約し、後続のプロンプトとして共有するクロス統合を実施した。探索期間中には、さらに学習が進んだ内部モデルの新バージョンへの更新も行われた。
エージェント群は最初の起動から約88時間後となる9月5日(土)にナビエ・ストークス問題の解法に到達した。その後、Leanを用いた形式化と検証には社内システム経由でさらに17時間を要したと報告されている。