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The Hacker News

期限切れのVisa非接触カードを再利用できる脆弱性「Zombie Card」が判明、米大学の研究チームが発表

要点

  • マサチューセッツ大学アマースト校の研究チームが、有効期限が切れたVisaの非接触型クレジットカードを実店舗で再利用可能にする攻撃手法「Zombie Card」を発表した。

  • 通信経路に中間者リレーを配置して端末が読み取る有効期限データを書き換えることで、カードの暗号処理を破らずにPOS端末の検証を回避できる。

  • Visaの非接触決済仕様では端末側の有効期限が電子署名の保護対象外となっており、発行銀行側が有効期限を独自に再確認しない場合に不正な決済が成立する。

  • 米国の大手銀行を対象とした検証では複数の銀行で決済が成立した一方、現時点で実際の悪用被害やCVE番号の割り当ては確認されていない。

  • マサチューセッツ大学アマースト校の研究者らが、有効期限の切れたVisaの非接触型クレジットカードを実店舗での決済に再利用できる攻撃手法「Zombie Card(ゾンビカード)」を発表した。この研究成果は、米ボルチモアで2026年8月12日から14日にかけて開催された第35回 USENIX Security Symposiumにおいて明らかにされた。

  • 研究チームによると、カード自体の暗号保護を破ることなく、近距離無線通信(NFC)でやり取りされる有効期限データを書き換えるだけで、店頭のPOS(販売時点情報管理)端末による期限切れチェックを回避し、実際の購入手続きを成立させることが可能だという。

攻撃手法「Zombie Card」の概要と成立条件

「Zombie Card」と名付けられたこの手法は、期限切れのカードを物理的に所持しているか、あるいはNFC(数センチ程度の至近距離で無線通信を行う技術)の電波が届く距離に対象カードがある状況で実行される。

攻撃を成立させるには、カードとPOS端末の通信経路の間に「中間者(MitM: 通信の間に介在してデータを改変・中継する手法)リレー」を配置する必要がある。さらに、カード更新時によく見られる「同じ主要口座番号(PAN: カード固有の口座番号)でアカウントが開設されたままになっていること」に加え、「カードを発行した銀行(イシュアー)が認証時に有効期限を独自に再チェックしない運用を行っていること」が条件となる。

端末側データの署名欠落を突く技術的仕組み

なぜカードの暗号化を突破せずに有効期限を改ざんできるのか。研究チームによると、Visaの非接触取引仕様(Kernel 3)において、有効期限情報は異なる2つのデータ形式で扱われている点が原因だという。

1つはPOS端末が処理制限を評価するために読み取る「TLVタグ 5F24(Application Expiration Date)」、もう1つはオンライン認証リクエストとして発行銀行へ送信される「トラック2同等データ(タグ 57)」である。Visaの仕様ではこれら2つのデータの一貫性が厳密に紐付けられておらず、端末側が検証する高速動的データ認証(fDDA: カードの真正性を検証する署名技術)の対象からタグ5F24が完全に除外されている。

そのため、中間者リレーが端末側のタグ5F24を未来の日付へ書き換えても署名エラーは発生せず、トラック2データをそのまま残すことで、カードが生成する署名と銀行側が検証する暗号データ(クリプトグラム)の双方が正常に認証を通過してしまう。主著者である同大学Khwarizmi Labの博士課程学生Raja Hasnain Anwar氏は、大学の広報資料において「有効期限は暗号によって保護されていないため、POS端末を欺くように容易に変更できてしまう」と述べている。

また、カード内のICチップや証明書の有効期間はカード表面に印字された有効期限とは独立して設定されており、通常は印字された期限よりも長く設定されているため、期限切れカードであっても端末側のオフラインデータ認証を通過する。さらに、カードの秘密鍵自体には有効期限の概念が存在しない。加えて、Kernel 3仕様では発行銀行へ転送される端末検証結果(TVR: 端末側の各種チェック結果)がすべてゼロに設定されるため、発行銀行は端末側でローカルの有効期限チェックが実行されたのか、あるいは失敗したのかを確認できない仕組みになっている。攻撃者は新しい更新カードの実際の有効期限を知る必要はなく、取引日よりも未来の日付を指定するだけで攻撃が成立するという。

米国大手銀行での検証結果と各ブランドの対応差異

研究チームは、EMV(国際的なICカード決済の標準規格)取引に対する一般的なデータ改ざんの検証として、米国の主要銀行5行を対象とした事前調査を実施した。端末側で本人確認を行うCDCVM(Consumer Device Cardholder Verification Method)フラグを改ざんしたところ、大半の銀行で取引が成立した。Anwar氏はThe Hacker Newsに対し、有効期限攻撃と同じく「取引データの改ざんが検知されない」という脆弱性に依存しているため、この結果は憂慮すべき事態だと語っている。

続いて、実際に期限切れとなり更新カードが発行された物理カードを用いて3つの銀行でテストを行ったところ、銀行ごとに異なる3通りの対応が確認された。

  • 銀行A: 有効期限の改ざんを許可し、複数枚のカード(旧カードと新カード)からの同時取引を承認した。
  • 銀行B: 改ざんを検知し、有効な1枚のカードからの取引のみを承認した。
  • 銀行D(Discoverのカーネルで稼働): 改ざんは検知したものの、複数カードからの取引を承認した。

また、各決済ブランド(EMV非接触カーネル)ごとの挙動についても比較検証が行われている。

  • Visa(Kernel 3): 有効期限の書き換えが端末の処理制限チェックを通過し、タグ5F24が署名対象外であるため署名も無効化されない。
  • Mastercard(Kernel 2): レコード読み取り解析時に2つの有効期限データの一貫性をチェックし、不一致があった場合はカードデータエラーとして扱い、オンライン処理に移行することなく取引を拒否する。
  • American Express(Kernel 4): 有効期限データがオフライン認証の対象データに必須レコードとして固定されており、改ざんすると署名検証時にハッシュの不一致が発生して処理が失敗する。

情報開示と現時点での対応状況

本研究は、Raja Hasnain Anwar氏、Gerard DeCunha氏、Muhammad Taqi Raza氏によって実施された。研究チームは2025年5月にVisaおよび影響を受ける銀行へ調査結果を開示し、2025年12月にも再度連絡を取っている。

現時点でCVE(共通脆弱性識別子)番号の割り当ては行われておらず、この手法が悪用された事例も報告されていない。また、The Hacker Newsによると、2026年8月20日時点において、Visa、EMVCo、Mastercard、Discover、American Express、および端末ベンダーのSumUpから、本件に関するセキュリティ勧告や仕様改定の案内、緩和策などのガイダンスは公開されていないという。

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