OWN NEWS GATHER
← 戻る
Sakana AI

Sakana AI、マルチエージェントの集合知を活用した自己改善技術「MASS」を発表

要点

  • Sakana AIとUCバークレーの研究チームは、AIが仮想エージェントチームの集合知から学習して自己改善する新技術「MASS」を発表した。

  • 単一モデルが仮想サブエージェントを編成して課題を解決し、最良チームの実行結果を共有モデルへ蒸留するサイクルを採用している。

  • 270億パラメータのオープンモデルを用いた実験で、4つのベンチマークにおいてスコアがベースモデル比で1.2〜1.6倍に向上した。

  • タスク解決データの学習だけで最適化役や評価役の能力も向上することや、改善速度の律速が最適化能力にあることなどが明らかになった。

  • 自己評価を伴うループでは盲点が固定化されるリスクがあるとして、AI安全性の観点から慎重な調査を求めている。

  • AI研究開発企業のSakana AIは、カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)との共同研究により、マルチエージェントの集合知を通じてモデルが自律的に性能を高める新技術「Multi-Agent Self-Supervision(MASS)」を発表した。単一のAIモデルが仮想サブエージェントのチームを編成して研究課題を解決し、その経験をモデル自身へ蒸留することで再帰的な自己改善を実現する手法だという。研究チームは本成果に関する論文、実装コード、および解説ブログを公開した。

開発の背景:自己評価ループが抱える「盲点」の強化リスク

AIシステムがオープンエンド(明確な正解が定まっていない自由形式)な研究課題に取り組むようになるにつれ、人間の専門家が結果を正しく評価し、適切な指示を与えることが難しくなりつつある。そのため、モデル自身が最良の最適化役や評価役を担う手法が有力視されている。

しかし、同一のモデルだけで自己改善のループを回す場合、自らの盲点を修正できずに誤りを学習によって強化してしまうリスクが課題となっていた。研究チームはこうした問題に対し、モデル自身が編成したチーム全体の「集合知」から学習できるかという検証に着手したと説明している。

MASSの仕組み:最良チームの協調プロセスをモデルへ蒸留

今回発表されたMASS(Multi-Agent Self-Supervision)は、1つの共有モデルを基盤としながら、複数の仮想サブエージェントからなるチームを構成して課題解決にあたる枠組みだ。

この仕組みでは、共有モデルが仮想エージェントの連携を通じてタスクを遂行するとともに、より優れた作業手順(ワークフロー)を探索する。さらに、モデル自身の判断基準に基づいて最良のワークフローを選出する。そして、選定された最優秀チームの実行データを用いて追加学習を行うことで、チーム全体の集合的な経験が単一の共有モデルへと蒸留(知識を集約して定着させる学習手法)されるサイクルが構築されている。

27Bモデルによる検証と3つの主要な発見

研究チームは、パラメータ数270億(27B)のオープンウェイトモデル(パラメータが一般公開されているモデル)を用い、合成されたオープンエンドな研究タスクで2サイクルの自己改善実験を実施した。その結果、2サイクル終了時点で、4つの研究ベンチマークにおいて出力トークンあたりのスコアがベースモデル比で1.2〜1.6倍に達したことが確認されたという。

また、実験を通じて、再帰的自己改善(RSI:AIが自らの出力をもとに学習を繰り返して能力を高める仕組み)に関する3つの主要な事実が報告されている。

第1に、RSIループ内における「役割の汎化」だ。タスク解決を担当する実行役(optimizee)のデータのみを用いて学習させた場合でも、ワークフローを改善する最適化役(optimizer)と成果物を判定する評価役(evaluator)の双方の能力が自然に向上することが判明した。

第2に、学習データの効率性である。単一のエージェントによる実行データと比較して、複数のエージェントが連携したマルチエージェントの実行軌跡データのほうが、自己改善のための学習データとしてより高い効率性を示したとしている。

第3に、自己改善速度におけるボトルネックの所在だ。改善のペースを左右する制約要因は、成果物を評価する能力ではなく、作業手順を最適化する能力側にある可能性が示されたという。

同質ループにおけるAI安全性への警鐘

研究チームは、モデル自身が評価者を兼ねる同質的なRSIループについて、AI安全性を支える観点からコミュニティ全体で慎重に調査を進める必要があると強調している。

評価者が同一モデルである場合、共通の盲点によって誤った処理が進歩として誤認され、その誤りが追加学習を通じて強固に固定化されてしまう懸念があるためだ。AIが人間の専門知識を超えて安全に能力を高めていくためには、こうした失敗のパターンを正しく理解し、問題を検知して人間が適切に介入できる有効な手段を維持し続けることが不可欠であると説明している。

研究体制と公開リソース

本研究は、Sakana AIのHyunin Lee氏、Jinglue Xu氏、Jeffrey Seely氏、Yujin Tang氏と、UCバークレーのSomayeh Sojoudi氏、Matei Zaharia氏、Donghyun Lee氏らの共同研究によるものだ。関連するプレプリント論文(arXiv: 2610.12176)および実装コードはGitHub上で、技術解説はSakana AIの公開ブログ上で提供されている。

元URL