SmartsheetがAWS上にリモートMCPサーバーを構築、AIエージェントによる企業データ活用を最適化し30億トークン超を削減
要点
- ワークマネジメントプラットフォームのSmartsheetが、AWS上にリモートの「MCP(Model Context Protocol)」サーバーを構築したことが公表された。
- これにより、外部のAIアシスタントや自律型AIエージェントが、Smartsheet内のプロジェクトデータへ直接アクセスし、タスクの更新や新規シート作成などを行えるようになった。
- AI向けのインターフェース最適化により、LLM(大規模言語モデル)のハルシネーションを抑制しつつ、これまでに30億以上のトークン消費を削減したという。
- システムの基盤にはAWS FargateやAmazon Bedrock、Amazon Neptuneなどが採用され、社内外のAIクライアントで同一のインフラが共有されている。
リード文
企業向けワークマネジメントプラットフォームを展開するSmartsheetが、AWS(Amazon Web Services)のクラウドインフラ上にリモートの「MCP(Model Context Protocol)」サーバーを構築したことが明らかになった。AWSが2026年7月17日(現地時間)に公式ブログで詳細を公表した。この構築により、人間とAIエージェントの双方が自然言語を通じてSmartsheet内のデータや機能をより安全かつ高効率に操作できる環境が整えられたという。
開発の背景とAIエージェント運用の効率化
多くの企業でAIエージェント(自律的に判断してタスクを実行するAIシステム)の導入が進む中、これらのエージェントが社内システムに格納されたデータへアクセスする手段の確立が課題となっていた。Smartsheetは、AIモデルが外部ツールやデータソースと安全に通信するための標準化された接続規格である「MCP」を導入することで、この課題を解決した。
開発されたMCPサーバーを経由することで、「Amazon Quick」や「Claude Desktop」といったAIアシスタントが、人間のユーザーによる自然言語の指示に従ってSmartsheetを直接操作できるようになった。具体的には、プロジェクトデータの分析、タスクの進捗状況の更新、新しいシートの立ち上げ、ワークスペースの管理といった複雑な操作が対話形式で可能になる。
さらに、ユーザーからの指示を待たずに自律して動作するカスタムAIエージェントの運用も容易になった。これらのエージェントは、要件定義の収集、タスクの自動引き受け、テスト結果のドキュメントへの添付、下書きの作成といった業務を自律的に遂行する。人間が普段使用しているシート上でAIエージェントが直接作業を行うことで、従来は数週間を要していた一連のワークフローが、数日あるいは数時間へと大幅に短縮される効果が得られている。
トークンコストの削減と信頼性の向上
MCPサーバーの導入にあたり、Smartsheetは既存のAPIや中央のインテリジェンス層と接続しつつ、その上位にAI処理に特化した最適化インターフェースを追加した。この設計は、LLM(大規模言語モデル:大量のデータで学習された高度な自然言語処理AI)の利用に伴うトークン(AIがテキストを処理する際の最小単位)コストを最小限に抑えるとともに、ハルシネーション(AIが事実に基づかない情報を出力する現象)を防ぎ、エンタープライズデータの処理精度を高めることを目的としている。
同社の内部測定によると、このAI最適化インターフェースによる効果として、リリース以降で累計30億以上のトークン消費を削減することに成功したと説明している。
AWSのクラウドサービスを結集したシステムアーキテクチャ
このリモートMCPサーバーは、可用性とセキュリティを両立させるため、複数のAWSサービスを組み合わせた強固なインフラストラクチャの上に構築されている。
ステートレスなサーバーコンテナの実行環境には、サーバーの管理が不要で安全にコンテナを動作させられる「AWS Fargate」が採用された。また、データの流出や不正アクセスを防ぐためのAPIゲートウェイ層には、Webアプリケーション向けのファイアウォールである「AWS WAF」や、DDoS攻撃からシステムを守る「AWS Shield」、Application Load Balancer(アプリケーション負荷分散装置)、そしてOAuthによる認証機能が組み込まれている。
データ処理の流れとしては、まず外部のAIクライアントから送信された要求が、前述のセキュリティゲートウェイ層を通過してAWS Fargate上のMCPサーバーに到達する。そこから、 transactional(処理履歴が保証されるトランザクション)な基本操作については、既存のSmartsheet APIを通じて各ドメインサービスへと連携される仕組みだ。
プロジェクト横断でのインサイト(知見)を導き出すためのインテリジェンス層には、複雑に絡み合うデータの関係性を効率よく処理できるグラフデータベースの「Amazon Neptune」や、データ分析プラットフォームの「Databricks」が使われている。MCPサーバーはこのインテリジェンス層へ直接クエリを投げ、高度な意思決定に必要なデータを取得する。また、ドメインサービス側で発生したデータ更新などの変更イベントは、「Amazon Kinesis Data Streams」(リアルタイムデータストリーミングサービス)と「Amazon Managed Service for Apache Flink」(ストリームデータ処理サービス)を経由して、「Amazon S3」(安全かつ安価なストレージサービス)にバックアップされつつインテリジェンス層へとリアルタイムに同期される。
さらに、AIの推論を支えるモデルの実行基盤には、多様な高性能AIモデルをAPI経由で安全に利用できる「Amazon Bedrock」が導入されている。
社内用と外部接続用で共通化されたインフラ
Smartsheetが構築したこのMCPレイヤーは、社内のシステムと外部のクライアントの双方に対して一貫したサービスを提供する点に特徴がある。同社が提供する製品内の対話型AI機能「Smart Assist」と、外部の「Amazon Quick」などのAIクライアントは、全く同一のAWSインフラ上で稼働し、同一のツールや最適化技術、およびインテリジェンススタックを利用している。
この設計アプローチについて、同社は「一度開発すれば、すべてのエージェント型クライアントが即座にその恩恵を受けられる」という意図的な選択であると解説している。社内外でシステム性能やセキュリティレベルの格差を生まない体制を敷くことで、開発効率とユーザー体験の双方を最大化させている。