中国系サイバー諜報集団「TA419」、米国のAI政策専門家を標的に偽装フィッシングを展開――日米の防衛・研究機関も標的に
要点
-
中国に関連するサイバー諜報グループ「TA419」が、米国のシンクタンクや大学に所属するAI政策専門家を標的としたフィッシング攻撃を展開していることが判明した。
-
攻撃者はAI企業Anthropicの従業員やホワイトハウス元幹部になりすまし、軍事統合や政策に関する意見聴取を装って接触を図っていた。
-
攻撃には「Frameless BitB」と呼ばれるiframeを用いずに本物そっくりのログイン画面を描画する技術と、中間者攻撃(AitM)による認証情報窃取ツールが悪用されていた。
-
同グループは2025年4月以降、日本や米国の防衛、安全保障、エネルギー関連組織なども継続的に標的としている。
-
米エンタープライズセキュリティ企業のProofpointは、中国に関連するサイバー諜報グループ「TA419」が、米国の人工知能(AI)政策の専門家を標的とした資格情報(クレデンシャル)フィッシング攻撃を行っているとする調査結果を公開した。攻撃者は著名なAI関係者や元政府高官を装い、多段階のリダイレクトと高度な偽装ログイン画面を通じて、標的のアカウント情報を窃取しようとしていたという。
著名人や政府関係者を装い信頼関係を構築する手口
Proofpointの報告によると、TA419は米国のシンクタンク、大学、法曹関連組織でAI政策に携わる専門家を標的にしている。攻撃者は著名な経済学者やAI政策立案者のほか、大手AI企業Anthropicの著名な従業員などを装っていた。
具体的な事例として、2026年2月には米シンクタンクのAI政策専門家に対し、Anthropicの従業員を騙って「Claudeの軍事統合に関するフィードバック依頼(Request for Feedback on Military Integration of Claude)」という件名のメールが送信された。さらに2026年7月頃にも、ホワイトハウス科学技術政策局(OSTP)の元幹部を含む複数の人物を騙り、AI政策の専門家を狙ったフィッシングメールが送られていたことが確認されている。
攻撃はまず、警戒心を抱かせない害のない招待状などを送って標的との間でやり取りを行い、信頼関係を築くことから始まる。標的がこの初期連絡に応答した段階で初めて次の攻撃段階へ移行し、短縮URLが送られてくる仕組みとなっていた。
iframeを使わない偽ログイン画面「Frameless BitB」を悪用
送られた短縮URLをクリックすると、多段階のリダイレクト処理が実行され、セキュリティチェック機能「Cloudflare Turnstile」の認証画面を経て、クラウドストレージ「OneDrive」を装ったフィッシングページへ誘導される。
この偽ページには、「Frameless BitB」と呼ばれる手法が採用されていた。これは、Webブラウザ内にHTMLやCSS、JavaScriptを用いて本物そっくりの偽ログインウィンドウを描画する「Browser-in-the-Browser(BitB)」攻撃の一種である。従来のBitBがインラインフレーム(iframe:ページ内に別のHTML文書を埋め込む要素)を使用するのに対し、Frameless BitBはコードの検索・置換によってスクリプトやHTMLを注入し、iframeタグを使わずに視覚的な偽ウィンドウを作り出す特徴を持つ。この手法は、セキュリティ研究者のWael Masri氏が2024年1月にオープンソースとして公開していたものだという。
TA419はこの公開ツールに独自のテレメトリ(遠隔測定)機能と自動化モジュールを追加して拡張していた。標的がMicrosoftのサインイン処理を進める様子を追跡し、通信の間に割り込む中間者攻撃(AitM:Adversary-in-the-Middle)プロキシを用いて資格情報を奪取しながら、裏側では本物のMicrosoftのサーバーと正規の通信を行う。
この仕組みにより、標的側の画面上では正規のサインインが正常に完了したように見えるため、セッションを維持するための情報(Cookie)が密かに盗み取られたことに被害者が気づきにくい設計になっていた。
日米を視野に入れた諜報活動の背景と推奨対策
Proofpointの分析によると、TA419は遅くとも2025年4月以降、米国および日本を拠点とするシンクタンク、防衛関連企業、大学、法律事務所に所属する関係者を対象に同様のフィッシング攻撃を展開してきた経歴があるという。
同グループは一貫して、防衛、国家安全保障、エネルギー、国際関係、外交政策に関連する組織への関心を示しており、今回のAI政策専門家への攻撃も従来の活動範囲の延長線上にあると同社は分析している。背景には、米国と中国の間で激化するAI分野の戦略的競争、モデル蒸留を巡る非難、輸出規制などがあり、米国内のAI政策や規制動向を把握する中国側の情報収集活動の一環とみられている。
こうした中間者攻撃型の脅威から身を守るため、Proofpointはパスキー(公開鍵暗号技術を用いてパスワードを使わずに認証する仕組み)など、フィッシング耐性を持つ認証方式の導入を推奨している。また、専門的な内容であっても心当たりのない連絡を受けた場合は、安易に応じず相手の身元や正当性を慎重に確認するよう注意を促している。