Zoomの画面共有注釈機能に脆弱性、会議参加者による端末乗っ取りの恐れ——修正パッチは適用済み
要点
-
Zoomの画面共有における注釈(アノテーション)機能に複数の脆弱性が存在し、会議参加者が発表者や他の閲覧者の端末を乗っ取ることが可能な状態だったことが明らかになった。
-
標的となった利用者がクリックやダウンロードなどの操作を一切行わなくても攻撃が成立する「ゼロクリック」の特性を持っていたとされる。
-
影響を受ける脆弱性は2026年6月および7月に配信されたクライアントのアップデートですでに修正されており、現時点で悪用は確認されていない。
-
脆弱性を報告したセキュリティ企業は、市販のAIモデルを活用することで1日足らずのうちに実証コードを作成できたと主張している。
-
脆弱性の危険度スコアやユーザー操作の要否について、Zoom公式のセキュリティ情報と発見企業の見解の間で乖離が見られる。
-
Zoomのクライアントソフトに搭載されている注釈機能に、会議の参加者が他の出席者や画面共有者の端末を不正に乗っ取ることができる脆弱性が存在していたことが明らかになった。イスラエルのセキュリティ企業「A Security」が調査結果を公開したもので、対象となる問題はZoom社によって2026年6月および7月に対処パッチがすでに提供されている。記事公開の時点で本脆弱性を突いた実際の攻撃被害は報告されていない。
画面共有時の注釈機能に潜んでいた脆弱性
問題が確認されたのは、Zoomで画面を共有している最中に画面上へ手書きの描画や文字入力を可能にする注釈機能である。A Securityの報告によると、この機能の欠陥を悪用することで、画面を共有している発表者が閲覧者のPCを乗っ取ることや、逆に閲覧者が発表者のPCを掌握することが可能だったという。
攻撃にあたって被害者側にはリンクのクリックやファイルのダウンロード、ダイアログの承認といった一切の操作が要求されず、画面上にも痕跡が表示されない仕組みとなっていた。
本脆弱性の修正パッチはすでに提供されており、以下のバージョン以降で問題が解決されている。
- Zoom Workplace(全プラットフォーム): バージョン 7.1.5 および 7.0.6 未満が影響(各ブランチの最新版で修正)
- Zoom Workplace VDI Client for Windows: バージョン 7.0.11 および 6.6.16 未満
- Zoom Rooms / Zoom Meeting SDK(全プラットフォーム): バージョン 7.1.0 未満(一部の脆弱性は 7.1.5 未満)
米サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)の既知の悪用された脆弱性カタログ(KEV)にも、現時点で関連する識別番号は登録されていない。
描画データの処理と検証不備による攻撃の仕組み
Zoom公式からは内部構造の詳細が公表されていないため、技術的な仕組みはA Securityによるリバースエンジニアリング(ソフトウェアの動作解析)の結果に基づいている。
同社によれば、Zoomの注釈機能における手書き描画データは画像そのものとしてではなく、構造化されたオブジェクトデータとしてネットワーク上を送信される。受信側のクライアントはデータに含まれるカウント値をそのまま信頼して読み取りサイズを決定する設計になっていた。
この処理において、固定された128バイトのバッファ(一時記憶領域)に対してデータサイズの一致を確認しないまま書き込みを行う箇所が存在した。この領域がオブジェクトの終端フィールドにあたるため、不正に大きなカウント値を送信することでバッファの境界を越えてメモリを破壊し、プログラムの実行フローを制御するリターンアドレスを上書きできる状態になっていたという。
さらに、メッセージの送信元に関する検証が行われていなかったことが、被害を会議全体に拡大させる要因となった。通常、閲覧者と共有者の間にはメッセージ通信路が設けられており、オブジェクトの送信を示すメッセージ番号(0x10001)と、受信確認を示すメッセージ番号(0x10002)などが定義されている。しかし、受信処理側が送信者の参加者区分を確認せずにデータをパーサーに引き渡していたため、受信確認を送るべき経路に細工したオブジェクトデータを送り込むことで、相手側のクライアントに悪意あるデータを強制的に処理させることが可能だったとされる。
脆弱性の識別番号と深刻度評価における見解の相違
本件に関連して、以下の3つの脆弱性識別番号が割り当てられている。
- CVE-2026-53413(CVSSスコア: 8.3):バッファオーバーライト(Zoom Security Bulletin: ZSB-26015 / ZSB-26016)
- CVE-2026-53414(CVSSスコア: 6.5):バッファオーバーリード(同上)
- CVE-2026-53415(CVSSスコア: 8.3):解放後メモリ使用(Use-After-Free / ZSB-26017)
A Security側は、これら3件のすべてについてCVSS 4.0基準で「9.0」の深刻度であると評価している。しかし、Zoom側が発行したアドバイザリでは上記のように8.3および6.5と低めのスコアが付けられている。また、Zoom側の評価ではユーザーによる対話(操作)が必要と定義されており、発見企業が主張する「ゼロクリック攻撃」の定義と食い違っている。
特にバッファオーバーリード(CVE-2026-53414)に関して両者の見解差が大きい。A Securityは、被害者端末の未初期化ヒープメモリから実行コードやvtableポインタを抽出でき、アドレス空間配置のランダム化(ASLR)を回避するために利用可能であると主張している。これに対し、Zoom側のアドバイザリでは該当の不具合が引き起こす影響をサービス妨害(DoS)に留まるものとし、機密性への影響は「なし」と評価している。
発見のクレジットについても分かれている。CVE-2026-53413とCVE-2026-53414の2件はA SecurityのIdan Levcovich氏に帰属されているが、CVE-2026-53415はZoom社内のセキュリティチーム(Zoom Offensive Security)の功績とされている。A Security側は3件すべてを自社の成果として記載しつつも、3件目についてはZoom側が事前に把握し、報告受領前にサーバー側で遮断処理を行っていたことを認めている。
AIモデルを用いた脆弱性検出と実証コード作成の経緯
2026年6月に3,700万ドルの資金調達を経てステルス状態から事業を公表したA Securityは、今回の脆弱性発見からエクスプロイト(実証コード)の完成までを1日未満、一般に公開されているAIモデルへの20回足らずのプロンプト入力によって達成したと述べている。ただし、使用された具体的なモデル名は明かされていない。
同社の説明によると、開発プロセスは当初から完全に順調だったわけではない。Java層から到達可能な関数を自動解析した初期の試みでは、70のライブラリにまたがる3,762個の関数が抽出されたものの、脆弱なライブラリ自体を見落とし、優先順位も45位と低く評価されていた。最終的には、実際の通話中に動作するクライアントの挙動を機能ごとに追跡・トレースすることで脆弱性の特定に至ったという。
Levcovich氏は、この種の高度なエクスプロイトを構築するための障壁はすでに崩壊したと指摘している。本件の公開直前には、OpenAIが高度なサイバーセキュリティ機能を備えた「GPT-5.6-Cyber」の提供対象を審査済みのパートナー企業のみに制限する方針を発表していたが、A Securityは誰でも利用可能な一般的なAIモデルを用いて今回の成果を得たと説明している。